嗚呼素晴らしき教訓!

 ラジオは教訓をまた1つ、得た。

 スマホさえあれば他の文明の利器なくとも、ぐらいできると。


 かなり無駄遣いをしてしまったが、さて幸いにも動けるようになった。

 電気をつけよう。


SMACK!

 

 ……つかない。

 もう一度。


SMACK!


 駄目である。

 光をつけてよく見ると、専用のカードとやらを差し込めば、反応するとか。

 はて、そんなもの……貰っていないぞ?

 ラジオは訝しむ。

 暫くして、頭上に豆電球。


 ラジオの手にはルームキーが。そこには棒状のものが括り付けられている。なるほど、これを挿入せよ! というわけだな。


 入れてみる。

 入らない。

 なるほど、向きが逆なのだな? 正方形だというのに奇妙なことも……

 ……入らない。


 それから90度ずつ回転させながら、天を衝くドリルのようにカチャカチャさせてみる。……入らない。

 何故だ。頭上に「?」のバルーンが浮かび、消える。


 不味い。実に不味い。何故って、まだ流していないのだ。つまり、くっさいのだ。この状態であと三泊。正直、どうせ慣れると思うが何か大事なものを捨ててしまう気がする。いやでも南アジア等のトイレ事情を考えれば別に──


 ラジオは檻の中のクマの如く歩き回る。ぶっちゃけ半身が丸出しなのでひんやりする。風邪ひきそう。

 思いっ切って、フロントに電話した。


 それから10秒後、部屋には文明のともしびがあった。


 曰く、キーはに挿入するらしい。


 ウカツであった。


 ラジオは祝砲代わりに1つ、くしゃみをしながら思う。

 どうやらラジオは賢者ではなく愚者らしいぞ、と。



 1時間の休息を経て、ラジオは大分に繰り出す。

 駅を一周する。

 なるほど、故郷と同じ感じだなとラジオは呟く。


 ラジオが家族と住まうミードホールは田端という名の居留地である。造りは駅があり、その内部及び外縁に食事処や貿易商が店を繰り出す。その後はひらすらにホールが続くのだ。

 

 更に1時間が経過した。オロナミンCという滋養蜂蜜酒(ノンアル)を飲んでいると、伝書鳩が文をよこす。

 見ると、今回の旅で共にする同行者は追撃略奪残業により少し遅れるとのこと。ラジオは返事を短くしたため、伝書鳩のもう片方の脚に括り付けた。



 このようなやり取りを経て、ラジオは同行人と合流することができたのである。


 その後大分の民にとってのソウルフード(同行人曰く)、「鳴門うどん」の期間限定メニュー「関ぶり丼(小うどんつき)」を食す。

 齢26のラジオにとって丼ぶりの中央に座するとろろ、は初体験である。

 納豆と同じ粘つき。美味であった。


 食事後は同行人の誘いにより夜景を見に行った。同行人の確かな車裁きの元、高速道路に面する公園に着くと……闇に宝石がちりばめられていた。


 ラジオの真の故郷とは、大陸に存在する世界的金融都市である。そこの夜景は確かに美しいが、同時に大陸の民が操る漢の言葉がやたらと飛び交う、うるさい場であった。

 同じ夜景でもここは──


 ──静かで、美しい。


PHEW


 と、ため息が漏れ出た。

 

 ラジオは出来る事ならこの光景を見続けたかった。だがその願いは叶わぬ。というのも、寒いからである。そう、とても、寒いのだ。


 こうしてラジオは慣れない寒さに震えながら、ホテルへと戻る。そして1日が終わる。明日からは本格的に取材……下見を敢行する。楽しみだ、まずは伐株山きりかぶさんと、そうだな福岡に知り合いのマーケットがあるのでそこを歌に登場させて……


 ラジオは眠りにつく。明日のを知る事もなく。


 次回に続く!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る