27. 野営地

 ドラゴンを眺めていても、状況は変わらないので、いったん帰ることにした。『脱出ポーション』を使えば、すぐにダンジョンから抜け出せるが、初瀬さんは遊び足りないと言って、攻略しながら帰ることを提案した。俺もまだまだ上司を殴りたい気分だったので、歩いて帰ることに賛成した。


 そして、地下7階まで戻ったとき、初瀬さんが言った。


「そういえば、この階に、『幸運の跳竜』なるモンスターがいるらしい」


「どんなモンスターなんですか?」


「聞いた話によると、金色の跳竜らしい」


「ふぅん。もしかして、あんな感じですか」


 俺たちの前方に、金色に輝く跳竜がいた。


「あいつだ!」


 初瀬さんが驚きの声を上げた瞬間、跳竜は跳び上がって、逃げ出した。


「やどs――」


 俺はすぐさま杖を向け、氷の塊を放った。跳竜は振り返ることなく、跳び上がって氷の塊を避けた。さらにそのまま壁を走って、ダンジョンの闇の中へ消えていく。


「追うぞ!」


「はい!」


 追いかけてみるが、幸運の跳竜の姿はなかった。


「くそっ、逃がしたか」


「まぁ、見れただけで十分じゃないですか?」


「いやいや、倒さなきゃ意味ないよ」


「あいつを倒すと何が貰えるんですか?」


「さぁ? ただ、ああいうレアな敵を倒すと、良いアイテムが貰えると相場は決まっている」


「そうなんですね」


「追いかけるぞ――と言いたいところが、今日は帰ることを優先しよう」


「そうですね」


 それから来た道を戻り、ダンジョンの外に出た。外はすでに夜になっていて、照明の強い明かりが俺たちを迎えた。軽井沢の肌寒い空気を吸い込み、外の世界に戻ってきたことを実感する。


「これからどうするんだ?」と初瀬さん。


「野営地に泊まるつもりですけど」


「そうか。なら、一緒に行こう。俺も野営地だ」


 2人で野営地へ移動する。


 広場の中央でキャンプファイヤーが行われていた。キッチンカーが数台あり、そこで料理を受け取った冒険者が、キャンプファイヤーで暖を取っている。


 俺はおにぎりと豚汁を受け取って、初瀬さんと適当な場所に座った。うどんをすする初瀬さんの隣で、俺は豚汁を飲んだ。久しぶりの温かい汁物はうまかった。味噌とだしの風味が体の隅々まで染み渡る。


「うまそうに飲むな」


「ええ、まぁ。疲れているのもあるし、最近、まともなものを食べていなかったので、体が喜んでいるのかもしれません」


「そうか」


 俺たちは黙々と食事を続け、腹が満たされると、キャンプファイヤーの炎をぼんやり眺めた。炎を見ているだけで、時間を忘れることができる。


 不意に初瀬さんが言った。


「宿須君が冒険者になったのって、本当に最近なの?」


「そうですけど、何か気になりますか?」


「ん。まぁ、最近冒険者になったにしては、戦い慣れているな、と思って」


「それは、まぁ」


 初瀬さんに俺の狂気について話すべきか迷った。決して気持ちのいい話ではない。しかし、ここまで一緒に行動してみて、初瀬さんなら受け入れてくれると思った。だから、話すことにした。


「実は俺、モンスターが今まで俺を苦しめてきた奴に見えるんです」


「……どういうこと?」


 俺は、俺が冒険者になった経緯や、モンスターが嫌いな奴に見えること、そして武器を持つと無限にパワーが湧いて、攻撃的になることを話した。


「――まぁ、つまるところ、私は武器を持つと『狂戦士』になるんです」


「なるほど」


 初瀬さんは、ドン引きはしていなかった。ただ、どこか納得のいっていない表情だったので、不安になる。


 訪れる沈黙。


 少しだけ気まずい。


 そして、ややあってから、初瀬さんは口を開く。


「宿須君の強い理由はわかった。でもさ、何かそれ、もったいなくないか?」

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