26. 地下10階
ある程度進んだところで、初瀬さんが言った。
「地下10階に行ってみるか。行く手を阻むドラゴンがどんなものか見てみたい」
このダンジョンは階層になっていて、現在、地下10階までの攻略が済んでいる。しかし、地下10階にいるドラゴンが倒せず、苦戦している状況だ。
「そう、ですね。でも、地下10階まで行くとなると、結構、時間が掛かるんじゃないですか?」
「大丈夫。これがあるから」
と言って、初瀬さんは地図を見せてくれた。地下10階までの各階の地形が描かれている。
「この地図を作るのに、4日掛ったらしいが、この地図を使えば、5時間で行ける」
「なるほど」
「嫌か?」
「そんなことないです」
「よし。なら、行こう」
先に歩き出した初瀬さんの背中を眺めながら、思った。
(5時間も大丈夫かな?)
知らない人と5時間2人きりは、精神的にきつく感じる。しかし最初の戦いで、初瀬さんに対し、好印象を抱いた。だから、うまくやっていけそうな気もした。
そして実際、うまくやっていけた。
前回の『霞ヶ浦ダンジョン』のときは、リーダーの男がべらべら喋っていたから、煩わしく感じていたが、初瀬さんは基本的に無言だったので、苦にならなかった。かといって、コミュニケーションが全くないわけではなく、適当なタイミングで話しかけてくれるから、鬱々とした気分にはならなかった。
また、初瀬さんとは、戦闘もやりやすかった。戦い方に口を出さないし、初瀬さんが周りを見ながら動いてくるので、自由に動きやすかった。このダンジョンでは、跳竜のほかに、コガタドラゴンやスライムドラゴンといった、雑魚敵にしては強いモンスターが出現し、気の抜けない戦いが続いたが、連携しながら倒していった。
たまに道中で出会った冒険者と情報交換しながら、ダンジョンを進むこと約5時間。俺たちは、予定通り、地下10階に到着した。
地下10階に対する印象は、『開放的な空間』だった。少し進むと崖になっていて、向こう岸まで石橋が一本だけある。橋の下は闇に包まれて底が見えず、上も闇が広がり天井が見えない。そして橋の先に、赤いドラゴンがいて、じっと俺たちを睨んでいた。遠目にもでかいのがわかる。
橋のそばには何人かの冒険者がいて、ドラゴンを指さしながら、ああでもない、こうでもないと議論していた。
俺たちも崖のそばに立って、ドラゴンを観察する。
「あいつが行く手を阻むドラゴンですか?」
「そうだ。近づこうもんなら、炎を吐いて、焼き尽くそうとする」
「なるほど」
気になったことがあったので、辺りをきょろきょろしていると、初瀬さんに言われる。
「どうした?」
「あ、いや、確かワイバーンもいるんですよね?」
「らしいな。でも、見当たらないな」
「奴らは――」と近くにいた冒険者が教えてくれる。「橋を渡ろうとすると、上からたくさん現れて、邪魔するんだ。さっき、ランク3が仲間と一緒に挑戦しようとして、途中で断念して引き返してきたよ」
「なるほど。ありがとうございます」と初瀬さんが答える。
「そうか。ランク3がいたのか。入れ違いで見れなかったな」
「そうですね」
「かなりの美人らしいが、どうなんだろうな」
「……どうなんですかね」
正直、見た目はどうでも良いが、ランク3の実力は見てみたかったと思う。
「それにしても」と初瀬さんは悩ましそうに頭を掻く。「アマゾンにこのダンジョンが出現したときは、人海戦術でごり押したらしいが、ワイバーンがいるなら、それも難しそうだ。ダンジョンも少しずつ難しくなっているんだな」
「厄介ですね」
「厄介? むしろ、喜ぶべきことだ」と初瀬は語る。「難しいほど、挑戦し甲斐がある」
「でも、攻略が遅れれば遅れるほど、災害の危険性が高まりますし、簡単な方がいいんじゃないですか?」
「まぁな。でも、俺はべつに、人助けのためにダンジョン攻略しているわけじゃないし、難しい方が燃えるね」
「……なるほど」
初瀬さんの言葉を聞いて、彼とうまくやれる理由がわかった。
彼もまた、自分のためにダンジョンを攻略している人だった。
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