25. 戦闘
俺たちは天井が高い洞窟型のダンジョンを進みながら、軽い自己紹介を行った。
男は『初瀬武志』と名乗った。歳は25で、俺の2歳上。冒険者としての歴は2年で、ランクは54らしい。俺が驚くと、初瀬さんは笑って言った。
「あんたもすぐになれるよ」
「だと、いいんですが」
「初めてすぐにヌシを倒せたんでしょ? なら、大丈夫さ」
「でも、キングゴブリンですよ?」
「相手が誰であれ、あんたがヌシを倒した事実は変わらない。だから、自信を持ちなよ」
「……ありがとうございます」
初瀬さんも難易度がDに設定されたダンジョンでヌシを倒したことがあるらしい。そして、そのとき手に入れた『魔力プラス』のスキルカードを見せてくれた。
「『魔力プラス』なのに、剣士なんですね」
初瀬さんは銀色の胸甲に赤いマントを羽織り、剣を肩にかけるスタイルでダンジョンに挑んでいた。見た目は剣士のそれである。
「この剣は、『魔法剣』と呼ばれる代物でね。魔力があることで、より強力な武器に変わるんだ」
「なるほど」
「そういうあんただって、『腕力プラス』があるのに、どうして黒魔導士なんだ?」
「……ここだけの話ですけど、『魔法の杖』を打撃武器として使いたいんですよ」
「へぇ。面白いこと、考えるじゃん」
感心したような初瀬さんを見て、彼には話してよかったと思う。他の人なら、馬鹿にされたり、説教されたりしただろう。
「それじゃあ、早速、その打撃武器としての力、見せてくれ」
俺たちの前に、体は小さいが、脚部が丸太のように太い2足歩行のトカゲが現れた。目がギョロギョロしていて、赤い鱗に覆われている。跳竜だ。ジャンプ力が特徴的なドラゴン型のモンスターで、恐竜みたいな見た目だが、俺には爬虫類顔になった上司に見え始めた。
「行くぞ!」
初瀬さんが駆け出す。俺も駆け出そうとして、踏みとどまる。殴りたいのはやまやまだが、まずは初瀬さんをサポートしようと思った。
上司が跳躍する。3メートル近くは跳び上がると、落下の力を利用し、その太い脚で初瀬さんを踏み潰そうとする。俺は落下点を狙い、魔法を発動した。杖先で氷の風が渦巻き、氷の塊が放たれる。氷の塊は上司に直撃し、上司は地面を転がった。初瀬さんが振り返って、親指を立てたので、俺も親指を立てる。
「俺もちょっとはいいとこ見せようか」
初瀬さんは剣の刃を撫でた。初瀬さんが撫でたところから火が上がり、剣が炎に包まれた。初瀬さんは炎の剣で上司に斬りかかる。上司は避けようとするも胸を斬られて悶える。初瀬さんが追撃を加えようとしたが、上司は高く跳んでその攻撃を避けた。
(馬鹿め!)
俺は狙いを定めて、氷の塊を放った。
当たった! ――と思ったが、上司は足を畳んで、身を縮める。そして、自身の真下を通過する氷の塊を足場にして、もう一度跳び上がった。
「なっ!?」
上司は天井に着地すると、膝を曲げて力を溜め、力強く天井を蹴って、俺に襲い掛かった。ミサイルみたいな勢いで上司が迫る。
「宿須君!」
初瀬さんが声を上げる。しかし、心配はご無用だ。
俺は杖をバットのように持ち替えると、上司の攻撃から逃げるように体をそらし、上司の顎を狙って、魔法を発動しながら、氷の杖を振る。杖が上司の顎に当たった瞬間、叩きつけるように杖を振りぬいた。
上司が後頭部を強く打って、鈍い音が鳴る。上司はそのまま伸びて、動かない。上司を観察すると、顎の周辺に霜ができていて、身がむき出しになっている部分もあった。杖先を見ると、皮膚が張り付いている。氷の杖は、氷の塊を撃つだけの武器だと思ったが、もう少し幅広い使い方ができそうだ。
「それが『魔法の杖』の打撃武器としての使い方か! すげぇじゃん!」
初瀬さんが感心するので、俺は「えぇ、まぁ」と照れてしまう。
「初瀬さんの魔法剣もかっこいいですね」
「おぅ、そうだろ! あ、さっさと止めを刺さないとな」
初瀬さんは剣を振り下ろし、上司の首を刎ねた。上司は跳竜から黒い霧となって消えた。後にポーションが残る。
「やるよ」
初瀬さんからポーションを受け取る。正直、たくさんあるので困っていないが、せっかくなので貰っておく。『丈夫な布袋』にポーションをしまった。
「確信したわ」と初瀬さんは言う。「宿須君とだったら、うまくやっていけそうな気がする」
それは俺も同じ気持ちだった。
だから、「俺もそう思います」と答えた。
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