腐ったミカンの下剋上

16. 特訓②

　いろいろと思うところはあったが、反論するのも面倒なので、俺は再び打席に立った。

（よくわからんが、魔法の練習だと思って、頑張ろう）

　バットを構え、魔法の発動タイミングを――。

「もう少し腰を落とせ！」

　――探ろうと思ったが、外野がうるさくて集中できない。

　もちろん、無視することはできる。しかし、それはそれでうるさそうなので、老人の言葉に従う。そして3ゲーム目が終わったところで、老人は言う。

「なぜ、フォームが大事なのか、わかっていないって顔をしているな」

「え、あ、はい」

　正直、俺の目的はきれいなフォームで球を打つことではないから、フォームなんてどうでも良かった。

「ふむ。ならば、なぜ、フォームが大事か教えてやろう。正しいフォームで打てば、少ない力で遠くまでボールを飛ばすことができるようになるんだ」

「少ない力で遠くまで飛ばせるようになると、何が良いんですか？」

「何度でも打席に立てる」

「……なるほど」

　老人の言葉を自分なりに解釈してみる。少ない力で遠くまで飛ばせるということは、体力の消費を抑えつつ、インパクトのある打撃ができるようになるということだ。そう考えると、悪いことではないような気がしてきた。上司たちに、何度でも強力な一撃を繰り出せるようになるからだ。

「わかりました。俺に打球のフォームを教えてください」

「ん？　あぁ、いいだろう。ただ、一つだけ条件がある」

「何ですか？」

「わしのことは師匠と呼べ」

「わかりました。師匠、お願いします」

「うむ」

　それから師匠の本格的な指導が始まった。

「もう少し振りを速く！」

「ボールから目を離すな！」

「違う。そうじゃない！」

　いろいろとうるさかったが、指導のおかげか、徐々にボールの飛距離が伸びた。

　6ゲーム目が終わりそうになったタイミングで、師匠は言う。

「今日はそろそろ終わりにしよう。最後はホームランを打ってみろ」

「ホームランですか？　できますかね」

「いいか。ボールを嫌いな奴だと思え。そうすれば、遠くまで飛ばせる」

「わかりました」

　嫌いな奴と思い込むのは得意だ。バットを握り、構える。ピッチングマシーンからボールが放たれた。迫る白球。それを上司だと思って、バットを振る。バットに上司の顔が当たった。潰すつもりで振りぬいたが、ゴロになってしまう。

「力みすぎだ！」と師匠は言う。「誰を想像したのか知らんが、憎しみがですぎている。あと、ボールを見て、振るタイミングを考えろ」

「わかりました」

　殴ることしか頭に無かったから、フォームやタイミングがめちゃくになってしまった。

（そうだ。俺はなんのために指導を受けたんだ）

　少ない力で上司の顔面を潰すためだ。

　バットを握りなおして構えた。ピッチングマシーンからボールが放たれる。迫る上司の顔。その顔面を最も効率よく潰せる場所、潰せるタイミングを計り、バットを振った。

　そして――心地よい金属音を響かせながら、ボールは直線を描き、バックネットの高いところに突き刺さった。