3. 初めてのダンジョン
(これでようやく楽になれる)
俺はそう思って、冒険者の説明会に参加した。
冒険者になるためには、『冒険者免許』が必要だ。そして免許には、『1類』と『2類』の2種類があって、『2類』の免許を取得するためには、ギルドが定めた試験に合格しなければならないが、『1類』は講習を受ける必要はあるものの、申請すれば誰でも取得できる。
一見、『1類』の方が『2類』よりもお得に見える。しかし1類には、2類の冒険者をサポートし、新しいダンジョンが出現した際には、初回の攻略に参加する努力義務があった。
その話を聞いたとき、俺はフグを食べるために死んでいった人たちのことを思った。1類の人間は、2類の冒険者たちが安全に攻略できるように用意された生贄だ。でも俺には、その方が、都合が良かった。だから、1類の冒険者を志願した。
1類の説明会に行くと、俺と同じような人がいた。死相が見える人、真面目にスーツを着ているが目は死んでいる人、老い先短い老人など、さまざまだ。ただ、全員に自殺願望があるわけではなく、路上で喧嘩していそうな不良や、ファンタジーが好きそうなオタクの姿もある。興味本位で来た一般人もいたが、そういう人は、説明会が終わると、足早に会場を去った。
俺はその場で発行書類にサインして、講習を受けた。そして1類の免許を受け取り、その足で高尾山へ向かった。他にも参加できるダンジョンはあったが、高尾山にはできたばかりのダンジョンがあって、初回の生贄役を募集していたからだ。
ダンジョンの入口は高尾山の中腹にあった。ギルドの職員と自衛隊で警備を行い、緊迫感と物々しい雰囲気に包まれていた。
受付にいたギルドの職員に、できたばかりの免許を見せ、書類を受け取る。死んでも自己責任という旨が記された書類だったので、署名して職員に返す。職員から集合場所を教えてもらい、移動する。
入口の近くが集合場所で、すでに30人ほど集まっていた。仮装集団かと間違えてしまいそうな、安っぽい防具を身に着け、ぼろぼろの武器を持っていた。
「君も初回の参加者かい?」と職員に話しかけられる。人のよさそうな中年の男だった。
「はい」
「なら、あそこから防具と武器などのアイテムを持ってくると良い。一見、使えないように見えるけど、ひとたびダンジョンに入れば、立派なものに変わるよ」
「ありがとうございます」
職員が指さしたプレハブ小屋に入ると、錆びた剣や年季のある金属製の防具が並んでいて、博物館にでも来たような錯覚を覚える。日本とは思えぬ物騒な光景でもあったが、昔やっていたゲームのことを思い出し、ワクワクしてきた。かなり劣化しているため、武器として利用できるのかは疑わしかったが、これらのアイテムはダンジョン内では本来の姿に戻るらしいので、その言葉を信じるしかない。
武器を近くで確認すると、剣の刃に日本語で『銅の剣』と彫ってあった。これはギルドの職員が識別のために書いたわけではない。どういうわけか、ダンジョンで見つかったアイテムには、その土地の言語でアイテム名が記されているのだ。
(どれにしようかな)
ゲームだと、『ジョブ』みたいなものがあって、そのジョブに応じたアイテムを選ぶが、この世界のダンジョンには、そんなものはない。一応、『2類』の冒険者なら、試験を受ける際に適性検査みたいなものをするらしいが、『1類』の俺は自分の適性を知らない。だから、アイテムは適当に選ぶしかなかった。
(魔法の杖は……止めておくか)
アイテムの中には『魔法の杖』なるものも存在した。ワクワクする響きの武器ではあるが、魔法の杖こそ適性が必要で、使えない人には全く使えない代物らしい。だから、一度も魔法の杖を試したことが無い俺にはリスクのある武器だ。
(どうしようかな)
いろいろ悩んだ結果、俺は『鉄の胸甲』を装備して、野球のバットみたいな『木の棍棒』を手に取った。どうせすぐに死ぬから、何でも良い気がしてきた。
俺が戻ると、職員は一瞥するだけで何も言わなかった。
時間まで他の人たちと一緒に待つ。と言っても、話すような性分ではなかったから、椅子に座って、他の人を観察する。ちゃんとした装備で真面目に攻略しようとしている人もいれば、腕試しで来ているヤンチャな集団もいた。俺と同じような人間もいて、防具もつけず、死んだ魚のような目で入口を眺めていた。
時間になると、偉い人がやってきて、出陣式が始まった。偉い人が、初回でダンジョンに挑むことがどれほど名誉なことかを熱弁する。きれいごとばかりの演説に、嫌気がさした。礎のために死ねと言われた方がマシだ。しかし、こういった戯言もこれで最期かと思うと、何とか聞くことができた。一通り話し終えると、最後の意思確認があった。40人くらいいたが、誰も辞退しなかった。それをもって、式は終わった。
「では、出陣!」
偉い人の号令で、ヤンチャな集団が雄叫びを上げながら、入口に向かって駆け出す。不良漫画で見たことある光景に、思わず吹き出しそうになる。
(最期に面白いものを見せてもらった)
俺はそんな気持ちで、ヤンチャな集団を追いかけ、入口に飛び込んだ。
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