2. 理想の場所

 5年ほど前、アメリカのジョージア州で最初のダンジョンが確認された。その後、世界各地にダンジョンが出現し、日本でも岐阜県の関ケ原で最初のダンジョンが見つかった。政府はすぐさま自衛隊と学者を派遣し、ダンジョンの調査を行った。マスコミは連日連夜、ダンジョンについて報道し、ダンジョンは世間の関心事となった。そして徐々に、ダンジョンの実態が明らかになる。


 まず、ダンジョン内は異空間となっていて、地球には存在しない生物、『モンスター』が存在した。そしてモンスターの中に『ヌシ』と呼ばれるものがいて、ヌシを倒すと、ダンジョンが消滅し、新たな場所に新たなダンジョンが出現する。また、ダンジョン内には、武器や防具を含む複数のアイテムが存在し、そのアイテムを使用することで『魔法』が使えた。しかしそれらのアイテムは、ダンジョン外に持ち出すとガラクタになり、魔法も使えなくなる。


 それらの発見に対する人々の反応は様々だった。ファンタジーな世界が身近になったことを喜ぶ者もいれば、それがダンジョン限定であることを嘆く者もいた。また、ダンジョンのアトラクション化を望む者がいる一方で、早急に消滅させろと声を上げる者もいた。


 政府は当初、調査のため、ダンジョンを維持するつもりだった。しかし、ダンジョンを維持すると、ダンジョンからモンスターが溢れだし、その土地に災いが降りかかることが判明した。実際アマゾンでは、ダンジョンから溢れたモンスターが雨雲となって、ダンジョンが消滅するまで、雨が降り止まなかった。そのため政府は、ダンジョンの消滅(攻略)に方針を転換した。


 そしてダンジョン対策として、『国家迷宮対策委員会』を設立した。ゲーム好きの初代委員長が、国家迷宮対策委員会を『ギルド』と呼んだことから、多くの人がこの委員会のことをギルドと呼んでいる。ギルドは当初、自衛隊と協力しながらダンジョンの攻略を行っていた。しかしダンジョンの出現頻度が上がり、自衛隊だけではダンジョンの攻略が難しくなった。そのため、ダンジョン攻略のスペシャリスト『冒険者』の育成と管理も行うようになった。


 冒険者という職業ができたばかりの頃は、志願者が殺到した。しかし、冒険者の実態が明らかになると、徐々に志願者は減る。冒険者はファンタジーな世界を体験できるが、死亡するリスクが格段に高く、軽い気持ちで入れるような場所ではなかった。だから最終的には、ファンタジーに対する強い憧れを持つ者や、命知らずの力自慢、行き先を失った者などが集まるようになった。


 冒険者という職業ができたのは、俺が大学1年生の頃で、当時の俺は、ファンタジーな世界に対する強い憧れはあったものの、死ぬのが怖くて、冒険者になろうとは思わなかった。


 しかし社会に絶望してから、改めて冒険者という職業を見てみると、とても理想的な職業に思えた。


 冒険者なら、合法的に死ねるからだ。

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