第15話 悪役は戦う、救うために

状況は最悪、体はボロボロ。圧倒的な実力の差だ。


「魔法書を渡してくれたら君は殺さないよ」


天使を人質に取られていた。


「愁!」

「キアか、状況は最悪だぞ」

「で、愁君、魔法書は渡してくれるのかい?」

「渡さないさ」

「キアが僕に攻撃した場合、この天使を殺す。魔法書を渡した場合誰も死なずにハッピーエンドだよ?」

「ハッピーエンド…か……」


ハッピーエンド、それは俺が目指す目標だった。確かに渡した方がいいんだろうな、まあ渡す事はないが……考える時間が欲しいな、この状況をどう掻い潜るか……。


「で、どうするんだい?」

「少し時間をくれ」

「別にいいよ」


俺は地面に座る。さて、どうしたもんか……俺1人ハッピーエンドを迎える、それは目標は達成しているが、俺自身はそんな選択肢、とっくの昔に消えていた。

ここから俺の人生は最悪になるだろう。ここで終わるかもしれない。今後出てくる、輪廻より強い敵組織に殺されるかもしれない。ヒロインに殺される……ヒロインに殺されるはダメだろ。


「あー、笑うしかねえな」


乾いた笑みしか浮かべれない。


「なあ、質問してもいいか? 前答えてやったろ?」

「うん、別にいいよ」

「天使、悪魔を従えて、どうするつもりだ?」

「うーん、それは答えられないね」

「そうか。じゃあさ……天使は何人必要だ?」

「愁!? その質問は天使を捨てるって事!?」


「んな訳ねえだろ」

「あはは、捨てるっていう選択肢は君の中にないんだね。天使が必要かどうかね。別に必要じゃないよ、いくらでも召喚すればいいんだし」

「なるほどね」


魔法書を破っても殺される。渡してもそれはハッピーエンドとは言えない。逃げても死ぬのは天使。流石に彼方さんもここまでは来れない……。これが詰みってやつかよ。


「ヒーローに憧れても、なれるわけではないな。人1人も救えねえのか……いや、人じゃねえか」

「急にどうしたんだい?」

「いんや、なんもないさ。戦闘を始めようか。キアは何もするな、いつでも相手は天使を殺せる」


「うん、よくわかってる様だね。とりあえず、舞台を整えようか」

「どう言う事だ?」

「〈炎の世界フレイムワールド〉」

「は?」


周りがガラッと一変する。キアが消え、俺と輪廻と天使だけになった。


「世界魔法、とでも言っておこうかな。世界に20人もいないぐらいの魔法だよ。自分だけの世界を作る、その世界では自分だけが圧倒的に有利。決めた人間を引き摺り込む。ね、完璧な舞台じゃない?」

「……完璧かもな、俺からしたら最悪だよ」


誰からも助けがない、サシの一本勝負。

本当に恋愛のゲームだろうか? どちらかと言うと魔法のゲームだな。まあこんな戦いする事なんてゲームではなかったわけだが。裏イベントってやつか。


「ほら、武器をあげるよ」


輪廻が指を鳴らすと俺の前にメラメラと燃えている剣が出てきた。持ち手だけは普通の様だ。


「ご丁寧にどうも」

「うん……それじゃあ」

「戦闘開始だ」


剣と剣が打つかり合う。魔法では負けている、そりゃもう完全に、天と地ほどの差が出来てしまっている。だが剣はどうだろうか? まあ負けてるだろうな。


「魔力よ、敵を射抜け! 〈魔力弾マナバレット〉!」

「不思議な魔法だね、何属性だい?」

「無属性、魔力を扱う魔法だ」

「それは面白い」


そしてまた近接線になる。


「でもごめんね、終わらせないと」

「……ッ!?」

「僕だからこそ扱える魔法、僕だからこそ詠唱無しで出来る魔法。〈太陽神の火球イグニス・ファイア〉」

「冗談キツいぜ……」


目の前には普通の火球とは全然違う。大きさで言えばゾウさんが何体だろうか? 軽く100はいくだろう。それほどの大きさの火球が魔法陣によって生み出されていた。


「終わりだね」

「……悪役って言えば、盗賊だよな」


ゾウさん100体分の火球が迫る中俺はそう呟く。


「お前の真似をしようか。俺だからこそ扱える魔法達、俺だからこそ詠唱無しで出来る魔法達」

「何を言って……」


この魔法を跳ね返す事は出来ない、限度ってもんがあるからな。盗賊、奪うんだ、跳ね返す、守るじゃなく、奪えばいい。


「速さ勝負だ。〈魔力強奪マナシーフ〉」


ゾウさん100体分が小さくなっていく。80体くらいだ。


「どうなっているんだ!?」

「魔力を奪ってんだよ。俺は悪役なのでね、悪役=盗賊さ」


避けようのない魔法、だがその分速度は遅い。


「これは相性の問題だ」


そして、0。大きさで言えば、ゾウさんは0体になった。


「だけど、お前の勝ち目はない」

「それもどうかな。〈魔法再現マジック・リバイバル〉。お前から奪った魔力が溜まりに溜まってんだ。言っただろ、お前の真似をするときに、魔法『達』って」


アイツは終わりだ、でも俺の意識も薄くなっている。流石に魔力を奪い過ぎた、体が耐えきれていない。

俺は心地よい悲鳴を聞きながら意識を手放した。







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