第11話 力が欲しいか…
「魔法の」
「特訓?」
トラヴィス様とサイラスが交互に首を傾げる。まあそれは当然の反応なんだがちょっと聞いてくれ。
「そう! 魔法の! 特訓です!」
二人は変わらずきょとん顔だ。私だけがドヤしている……まあまあ、待ちたまえ……君らにも有益な話なのだよ……
「「まだ懲りてなかったのか」」
「ウグゥッ……! 2人で傷をえぐらないで……!」
流石は親友コンビ、声の揃うタイミングまで完璧だわ……! 憐みの目と相俟って効果は抜群だ!
……いやね?
前回のこっそり特訓作戦は大失敗だった。あの一件のおかげでトラヴィス様との距離はかなり近くなった気がするけど、お父さまから私への監視の目がめちゃくちゃキツくなって、特に魔法に関しては一切話題に出せなくなってしまったのよね……。お陰様で、大事件まで時間がないっていうのに、無為に半年も過ごしてしまったわ! そろそろほとぼりが冷めた頃かなと思うんだけど、お父さまも私に対しては過保護すぎるからな……。
でも! 今回に関してはお父さまもきっと渋々でも許してくれるはず!
トラヴィス様は今、宮廷魔術師に魔法の基礎を少しずつ教わっているところ……。でも正直、トラヴィス様が優秀すぎて一介の宮廷魔術師では手に負えなくなってきているとか。これは王宮内で侍女さんたちから聞いたから間違いないはず。
サイラスもお兄さんたちに教えてもらっているようだけど、お兄さんたちも自分のことの片手間にやっているって話だったから、本当に基礎的なところまでしか教えてもらってないって。前に自分でも言ってたし、満足はしてないはず。
「いいですかお2人とも。今の魔法の授業に、満足していらっしゃいますか?」
キラリ、目を光らせて(眼鏡があったらこれ見よがしに押し上げるポーズしてたわ)、2人に問いかける。すると2人とも言葉に詰まって、顔を見合わせた。
「トラヴィス様、実はもう今の宮廷魔術師からはあまり学ぶところがないのではありませんか?」
「う……、いや、彼はしっかり職務をこなして……」
「サイラス、お兄さまがたの空いた時間だけでは基礎にちょっと毛が生えた程度の内容しか教わっていないのではないですか?」
「そ、それはそうだけど……」
ほらね。2人ともどう見ても現状に満足している顔じゃないわ! お相手の立場を考えて遠慮しているんでしょうけど、レベルアップの基本は追いつけないくらいレベル差のある師匠に師事することよ! 今のお師匠で満足できると思って?!
「こんなところで燻っていていていいのですか? もっと出来るって、もっとやれるって、思ったことはありませんか?」
「それは……」
「なあ……」
2人は気まずそうに顔を見合わせる。思ったことがあるのね! なんだよ、もっと強い魔法教えてよって、思ったことあるのね!
「お2人の近くにもっともっと素晴らしい実力の持ち主が暇を持て余していらっしゃるというのに、そこに目を付けるつもりはないのですか?! そう、そのお方ならきっと、必ずや、お2人の力をもっともっと引き出してくださるでしょう……それなのに、その機会を今この瞬間も、お2人は自ら手放しているんですよ! いいのですか?! ぬくぬくと与えられる座学や基礎の課題だけをこなしていて、それでいいと思っているんですか?!」
「っそんなことはない! 勿論、機会があるのならもっとやりたいと思っている!」
「オレも思ってるよ! 今のままじゃ全然護衛として役に立ててないんだから!」
「そうでしょう、そうでしょう! 黙ってはいても不満はあったでしょう。もっとやれるのにと、思われたこともありましょう!」
2人は真剣な面持ちでこくりと頷く。そんなところまで同時だなんて息ぴったりにも程があるわ。いいぞもっとやれ。
そんな2人を前に、私も神妙な面持ちで両手を差し伸べ、大きく息を吸う。
「お二方……。よくお考えくださいまし。己の心に問いかけるのです……。胸に手を当てて、私の問だけに集中して。よろしいですか?」
二人とも目を閉じて、自分の胸に手を当てる。まあなんて素直ないい子たち。
これ見よがしに咳払いをしてから、私は厳格そうな(って言っても所詮お子ちゃま幼女なので全然厳格からはほど遠いんだけど)声で言った。
「……力が……欲しいか……」
「「欲しい……!」」
なんだこの茶番。いやちょっとやってみたくて。
でも2人は思いのほか真剣に反応してくれてるわ……やっぱり男の子ってこういうの好きなのかしら?
「ではお教えいたしましょう、そのお方とは……」
ごくり、2人が固唾を飲んで見守る中、私は立ち上がってバッと片手を挙げてみせた。特に意味はないけど。なんかこう、「本日のスペシャルゲスト、こちらの方です!」みたいな感じでよくない? まあ本人がいるわけではないんですけど。
「ロレンス王弟殿下ですわ!」
「叔父上ぇ?!」
「王弟殿下ぁ?!」
「そう!!! 左様でございますお二方!!」
ここぞとばかりに声を張り上げる。なにこれちょっと楽しいかも。二人ともまさかの人選で予想だにしなかったと言わんばかりだ。まあまあそう驚かずに理由を聞いてくださいよ。
「考えてもみてください。ロレンス殿下は学問と魔術に特に秀で、最近では国王陛下の補佐の傍らに魔術論文の執筆もされていらっしゃるそうではないですか。その魔力量も知識も、師として仰ぐには十分すぎるほどあると思いませんか?」
「それは確かに……」
トラヴィス様が口元に手をやって考え込む。サイラスもうんうんと頷いちゃって。
論文の執筆は、補佐の仕事が減って暇になったので手慰みにやってたって設定資料に書いてたわ。
別に趣味でも学者でもないのに、せめて国のためにってそんな理由で……ううっ、ロレンス殿下がかわいそうすぎるでしょ! 人と交流しないと自己肯定感って上がらないんだからね! ちやほやしないと闇落ちしちゃう! 早く何とかしないと!!
「さらに、トラヴィス様は同じ魔法属性でいらっしゃいますから、実技もそのままご教授いただけますでしょう? サイラスは属性は違いますが、ロレンス殿下は魔術理論もよく理解していらっしゃいますから、実技練習の助言だってきっと的確にしてくださいますわ!」
トラヴィス様はまるっと教えてもらえるだろうし、サイラスは……実兄も別の属性だものね。それならより魔法への理解度が高い人に教えてもらった方が絶対にいいわ。
ロレンス様もトラヴィス様の近況報告という名目で国王陛下とお話しする機会にもなるだろうし、一石二鳥……いや三鳥、いやいや私も一緒に訓練してもらって力をつけれるから四鳥かしら?! 我ながらいい案すぎる!
「なるほど、確かにそうだな……。叔父上はお忙しいかと思い最近は控えていたが、伺ってもいいだろうか」
「是非!! 是非ともそういたしましょうトラヴィス様!!」
ここでガンガンに後押しする。怯むなトラヴィス様! それいけトラヴィス様! いやそもそも別にロレンス殿下とトラヴィス様って仲良しだから怯むこともないか! 王子殿下と言ってもトラヴィス様もまだ8歳なんですから、もっと叔父様にじゃれていいんですよ。
サイラスも結構乗り気みたいだし、ここは一気に決めちゃおう!
「で! ですね!」
パン、と手を叩いて盛り上がる二人の注目を集める。
「これをですね! 殿下からではなく! 国王陛下から! ロレンス殿下にお頼みいただきたいのです!」
「父上から?」
「左様でございます!」
ここが肝心、ロレンス殿下、私はこの世界ではまだ会ったことないんだけど、原作に忠実に行くなら彼の中のヒエラルキー頂点は兄王、つまり国王陛下。
結局事件も兄王に見放されたという勘違いからの絶望の末に起こっているわけだから、ここで「自分は頼られている!」という実感がないといけない。
もちろん甥っこからの頼みであっても断らずにきいてくれそうだけれど、それだと効果が半分にしかならない。
『息子がもっと魔法の勉強がしたいと言っているんだが、お前くらい優秀でないと皆ついていけないんだ、だから頼めないか?』と!!!!!
これ!!! この、兄からのたっての願いっていうのが!!!! 大事なのよ!!!!!
「あくまで国王陛下からの願いの体でないといけません! トラヴィス様が直接お話になると、現在師事していらっしゃる宮廷魔術師の方も外聞が悪いですし、ロレンス殿下が気にされてお断りになられるかもしれません!」
「ん……確かにそうか」
トラヴィス様聞き分けよすぎて不安になる。将来騙されたりしない? 大丈夫そ?
「オレも一緒に教えてもらえるなら、国王陛下からの依頼の方が兄上たちにも話しやすいかも」
「そうだな。父上に相談してみよう」
サイラス、ナイス後押し……。これで魔法の特訓はなんとかなりそうね!
「よかった! 私もお父様にお話ししやすいです」
「「え」」
「え?」
和気あいあいとしていた二人が突然動きを止める。え? 何? なんで急に真顔になるの? なんで揃ってこっちを見るの?
「「お前(君)はやめとけ」」
「ええ?! なんでぇええ?!」
ちょっと、二人してなんでため息吐くのよ! 私だけ出来ないなんてヤダーッ!!
こちとらチートヒロインとの決闘の行く末が、命がかかってるかもしれないんですよ! 学校で同じようなタイミングから勉強し始めたんじゃ遅いんですよ!
「なんでって、なあ」
「ああ……。特訓でロッテンバーグ公爵にしこたま怒られたの、もう忘れたの?」
呆れ顔のトラヴィス様の後をこれまた呆れ顔のサイラスが引き継ぐ。忘れとらん! 忘れとらんわ! だからお父さまでも敵わない国家権力振りかざしてもらおうとしとるんじゃろがい!
「わ、忘れてませんわ! でも私も魔法を習いたいんですの! お二人と国王陛下からのお話ならお父さまだって……!」
『はああ~……』と地を這うような二人の深~~~い溜息と、トラヴィス様の無言の首振りが「ダメに決まってんだろ」と言外に匂わせてくる。
ひどい。そんなに否定することないじゃない。ちょっと規格外に人間二人分くらい
飲み込みそうな大きさの火球が間違って飛び出しただけなのに。
あれだってもっと小さいロウソクの火サイズを出そうとしたとき驚かされて反射で出ただけなのに。くしゃみみたいなもんだったのにぃ! 不可抗力だわ!
「ううう……! ざ、座学! 座学だけでもいいですからぁ! 絶対実技しませんからぁ!!」
楽しいお茶会の席に、空しき私の叫びが響き渡る。
結局、座学だけと二人に散々泣きついてお情けで承知してもらい、国王陛下から正式にロレンス殿下に話が通り、そちらは順調に快諾いただけたみたい。
ノックノット家もむしろ大喜びだったとか。私だけは渋い顔をしたお父さまに、「実技は絶対にしない」と誓約書にサインまでさせられたけどね……。
過保護が! 過ぎるんだよぉ!
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