第6話  この乙女ゲームの世界

 私、アルスリーナ・ロッテンバーグ公爵令嬢、7歳!

 突然だけど公爵令嬢はいいぞ!

 何がいいってまず「公爵」っていう称号がいい。これはもう貴族の中でも物凄く位が高い。すごく偉い。

 そして高位貴族だと何がいいかっていうとお金がある。

 お父さまは宰相として、国政の重要なポストに就いている。つまり名ばかりではなく地位も権力も富もある。すごい。ここが一番肝心だ。


 お母さまも社交界の花と言われ、毎日あちこちのお茶会や晩餐の招待状が届いている。

 お母さまが着たドレスが流行り、お母さまが褒めたお茶が流行る。すごい。所謂ファッションリーダー。なんて言うんだっけ、バズらせる人たち。そう、インフルエンサー。そう言う感じ。


 それに領地も広いし鉱脈のある山も持ってる。宝石とか燃料とか、そういうやつだ。この国は国土の大半が山脈で、農地は少ないけれど逆に鉱山が豊富にある。

 食料は他国に頼らないといけないし魔物も多いけれど、鉱石類の輸出でなんとか成り立っている。つまり鉱山や鉱脈のある領地は金を持っている!

 そう、お金はいい! あるに越したことはない!

 なんせ前世は働けど働けど我が暮らし楽にならなくてじっと手を見る暇もなかった。それを思えば公爵令嬢なんて天国と言っても過言ではない!

 しかも第一王子と婚約まで決まっている! 我が身も安泰! 最高! ゆくゆくは王妃よ! 立身出世よ! キャッホー! 公爵令嬢サイコー!


 そう、例えこの先、悪役と呼ばれヒロインの少女と一戦交えて命を落とすか命を奪うか或いは国を追放されその後の行方が知れなくなるか、そんな運命が待ち構えていても!

 公爵令嬢ってホントに楽しい! キャンメイク令じょ…………


「ってそんなわけあるかぁ!!」


 脳内のお花畑に渾身のセルフツッコミで終止符を打った。そう、キャッキャウフフしている場合ではない。

 今度こそ人生を全うするために、残念な結末は回避しなければならないのだ。


 悪役令嬢への転生……あー前世でそんな物語沢山見たな~、まさか自分がそんなことになるなんてな~!

 正直「ウソだろ」と現実逃避したいが思い出してしまったものは仕方がない。キャットファイトも国外追放もお断りだし、何より推しを、推しの健康と安寧を全力で守っていくと決めたのだから!






 お茶会から帰ってきたときは、正直何を話したのかも記憶になかった。ただひたすらに変なことを口走らないようにと必死だった。

 唐突に前世というものを思い出したものだから、記憶が混ざって色々と大変だった。

 この世界にない概念とかうっかりポロリしちゃったら何だこの女ってなるかもしれないし。

 にしても推し、可愛かったなぁ……。

 ずっと喋っているところやお茶を飲んでいるところ、お菓子を食べているところを見ていたかった……。永遠に見ていられる……。

 むしろ見続けたいという気持ちが勝ってしまって大人しくしていたまである。

 設定資料でしか見たことのなかった幼少期のトラヴィス様を、まさか生で見られるなんて……。思い出しても頬が緩んでしまう。


 いや、浮かれている場合ではないわ。

 推しがいるというのは嬉しいけれど、それだけを喜んでもいられない。

 そう、この先のことを考えないと。


 整理すると、今私がいるのは『乙女と6つの約束』通称『乙6おとろく』という恋愛シミュレーションゲーム。


『ヒロインは孤児ながらとてつもない魔法の力を持っており、王立魔法学校に特待生として入学して攻略対象と出会う。そこで魔法の勉強をしつつ、攻略対象たちと冒険しながら愛を育んでいく』

 と言う、言ってみれば結構王道な恋愛ものだ。


 しかしながら前世で爆発的に人気だったこのゲーム、どちらかと言えば乙女ゲームと言うよりRPGとして親しまれていた。

 絶対ファンタジーRPG好きのディレクターが途中で加入しただろ、と言わんばかりの作り込みで、冒険パートでヒロインや攻略対象たちを育成し、レベルをめちゃくちゃに上げてボス戦に臨めと言うのだ。

 しかもそれが某有名なナントカファンタジーとか某有名なナントカクエストくらいにやり込める。

 特定の依頼を請けるまでシナリオ進行がストップするため、デイリー任務や特定クエスト以外のクエストをいくらでも受注可能という……もういっそ冒険RPGにおまけで乙女ゲームのシナリオつけました、でいいんじゃないか?  と言われるほどに冒険パートが作り込まれていたのだ。

 あまりの人気っぷりに、乙女ゲームとは別に冒険RPGとしてアプリゲームが配信されたほどで、乙女ゲームシナリオそっちのけで冒険パートにのめり込んだプレイヤーも数多くいたと言う。


 ちなみに前世の私は、キャラの背景めちゃくちゃ読み込むし推しに関する話は全部読みたい勢だったので、冒険パートもやり込んだが乙女ゲームシナリオもきちんと網羅し、設定資料から何から隅々まで読み込んだ勢である。

 隠しキャラルートまで全部制覇した。

 と言っても、乙女ゲームとしてのシナリオはそこまで複雑な分岐があるわけでもなく、結末のほとんどがヒロインと攻略対象の甘々ルートだったんだけど。

 ただ王子ルートの時だけは婚約者の令嬢との対立や隣国との国交の緊張があり、そこだけは気を付けないと戦禍に巻かれるルートや令嬢との対決でバッドエンドルートに入ったりする。


 私は恋愛パートもやりこんだしRPGもやりこんでアプリまで手を出していた結構な廃課金勢……おかげでいつも金欠でカツカツ、腐った同人活動も相俟って普段は社畜してるような前世だった。

 そういえば転生ってことは向こうでの人生を終えたってことなんだろうけど、いつ死んだんだろう。持病もなかったし、謎だ……。


 それはさておき。

 ゲームのヒロインは元孤児で、孤児院が魔物に襲撃された時に魔法の力が覚醒し、王立魔法学園に通うことになった心優しき女の子、ケイト。

 6人の攻略キャラクター達はそれぞれ悩みを抱えていて、ヒロインがその悩みまで包み込んで彼らを愛することで心から惹かれていく……と言うストーリー。


 その攻略キャラというのが、


 私の最推し、幼少期の事件のせいで人を信じることができないクールな孤高の王子、トラヴィス・オルブライト殿下。

 その王子殿下の乳兄弟で、護衛騎士も務める爽やか系イケメン、サイラス・ノックノット公爵令息。

 若干14歳にして宮廷魔術師団に所属する天才少年、ちょっぴりわがままな年下ショタ枠のナイジェル・トーリ伯爵令息。

 学園の教師で、穏やかで知的だけど少し陰のある年上枠、クライド・フレンブルム先生。

 隣国からの留学生で、社交的で紳士的な真面目系イケメン、リュアン・エレンスター王太子殿下。

 それから、ワイルドなオジサマ枠、Sランク冒険者の、レーニス・オルシュタイン。

 平民は姓を持たないこの世界で国中に名を馳せる冒険者レーニス。実は王家の血筋という裏設定だ。

 元孤児のヒロインは平民の子として学園に入学するのが難しく、男爵家に養子に入っている。

 そのヒロインがトラヴィス様ルートで対立するのが、この私、アルスリーナだ。

 慣れない貴族社会、何かと礼儀作法の粗が目立つヒロインのケイトに、王子の婚約者であるアルスリーナは最初こそ色々と面倒を見たりしてくれるのだけど、トラヴィス様との親密度が上がるにつれケイトを見る目が厳しくなり、嫉妬に狂い、彼女を排除しようとする。

 そして最終的にケイトに対しての行き過ぎた行為が見咎められて婚約破棄……けれど、それすらも納得がいかないアルスリーナは最後の最後にケイトに決闘を突き付ける。

 このアルスリーナ戦がまぁ~~相当シビアで、ガチでヒロインのレベルを上げていないと普通に負けて誰も幸せにならないエンドが来てしまうのよね。

 多分、高確率でプレイヤーの9割はこの負けエンドを経験してるはず。私ももちろん初見の時は負けましたとも。

 何せ「心優しいヒロイン」という設定が邪魔をして、アルスリーナ戦のヒロインは攻撃魔法が使えないのよね。一方のアルスリーナは炎系の攻撃魔法をガンガンに使ってくる。

 ヒロインは「回避・回復・防御・反射」しか使えない。勝つためにはHPをガン上げして、バフ系魔法のレベルをガン上げしてリフレクションでアルスリーナに一発大打撃を返すしかないのだ。

 何度……何度この戦闘に負けたことか……。

 ああ、顔合わせの日に見たあの怖い夢、あれがその戦闘だったのね……。待って、あれは前世の記憶であって今後起こることじゃないわよね?


 あの日、お茶会から帰ってきて自室でお休む前に思い切り両頬をつねってみたけど、やっぱりこの世界は夢じゃなさそうだった。

 婚約者の王子殿下はトラヴィス様だったし、ノックノット公爵令息……サイラスは、同じ公爵家ということもあって実は前から交流がある。

 彼はトラヴィス様と同い年で、話し相手となるべく王宮で一緒に過ごしている時間も長い。

 今後は私も頻繁にお話に伺うようにとのことだから、トラヴィス様とサイラスと3人一緒にいる時間も増えるんだろう。

 ショタ枠の少年は私より2つ年下だから今はまだ5歳くらいだけど、確かトーリ伯爵家の子息は物心ついた時から魔法を扱えるらしいと噂になったことがあるから多分その子がナイジェルだろう。

 教師のクライド先生のことは何もわからないけど、お母さまが最近フレンブルム家のお茶会の招待状を見ていたからいらっしゃるはず。今はまだゲーム本編の10年近く前だから、先生ではないかな。

 隣国エレンスター王国のことと冒険者のレーニスのことは何とも……まだわからないんだけど。

 とにかくこの世界が「乙6」の世界だということは間違いない。となると、ヒロインのケイトのことが気になる。

 転生話でよくあるのがヒロインも転生者で、しかも逆ハーレム狙いだったり一番人気の王子狙いだったりで悪役令嬢と対立するやーつ。

 私は対立したくない。出来たら仲良くしておいて、決闘ルートも回避したい! むしろ親友ポジに収まって二人の仲を取り持つのもいい。


「そうとなれば早速探すわよ、ヒロインを!」


 アルスリーナとケイトが出会うのは、本当なら学校に入学してから。

 ゲームの設定では魔法を使えるのは貴族だけで、貴族子女は12歳になると魔法の属性を調べる鑑定式を行う。これは今の国の制度と同じだわ。

 魔法は基本は1人につき火・水・風・土・雷・聖のいずれか1つの属性を操ることができる。

 大体扱える魔法の属性は血筋で決まっていて、ロッテンバーグ公爵家は代々攻撃性能の高い火の魔法の使い手。ゲームのアルスリーナも、令嬢の出していい威力じゃないレベルの火の高位魔法を使っていたわ。

 2つ以上の属性を使えるのは極めて稀で、例えば王家の血筋。トラヴィス様も国王陛下も代々雷魔法と聖魔法を使える。天才と名高い攻略キャラの一人、ナイジェル・トーリは異例の3属性持ち。

 そしてヒロインのケイトは、聖なる女神の恩恵を受けたと言われ、なんと全属性を操れる……。まさにチートちゃんなのよね。

 ただし、魔法っていうのはとっても危険だから、貴族子女も特定の職業に就くと決まっている血筋以外、基本的には12歳以上からでないと勉強出来ないことになっている。学園の入学も15歳から。

 だから本来ならヒロインのケイトと出会うまであと8年くらいもあるんだけれど……それまで待っていられないのが乙女心ってものですよ。


「ユマ! ユマ、いる?!」

「はぁい。お嬢様どうなさいました? そんなに大きな声で……」


 すぐに待機していたユマがやってくる。珍しく大声を挙げたものだから驚いているようだったが、気にしないふりをして用件を切り出した。


「国内の貴族一覧みたいなものなかったかしら? ちょっと確認したいのだけど!」

「ええっ、どうしたんです? 急にそんな……。旦那様なら名鑑をお持ちかもしれませんが……」

「借りてきてほしいの! 持ち出せないなら私が見に行っていいか聞いてみて!」

「ええっ、ですが何故そんな……」

「いいから! 早く!」

「わ、わかりました! すぐに!」


 ヒロイン・ケイトの孤児時代のことは設定資料にもちらっとしか書かれていなかった。

 暮らしていた街の孤児院が魔物の襲撃に遭い一緒に暮らしていた子供たちや面倒を見てくれていたシスターたちに危険が迫った時、ケイトの魔法の力が覚醒して魔物たちを浄化し、それがきっかけでその孤児院に縁のあった男爵家に引き取られ、学園に……と言う流れだった。

 でも街の名前が思い出せない。魔物の襲撃はこの国では結構頻繁で、王都付近の大きな都市どころか王都ですらも常に警戒がされているのだ。

 「田舎の孤児院」だけでは到底場所が特定できない。だからここは、彼女が養子に入る予定の「ブランマルシェ家」について見てみるのが一番だ。


 慌てて部屋を駆け出して行ったユマは、しばらくして広○苑並みに分厚い本を抱えて戻ってきた。机の上に下ろすとドスンと大きな音がする。相当重そうだ。


「ありがとユマ! 重いのにごめんね」

「いえいえ……お役に立てたなら、何よりです」


 ユマはいかにもダメージがあると言わんばかりに本を抱えていた両腕をぷらぷらと振りながらも笑顔を見せる。お父さまの書斎からだと階段もあるし大変だっただろうに。

 とはいえ気遣いもそこそこに、私は分厚い本を小さな手で懸命にめくった。この国の数多の貴族の中、探しているのはただ一家。


「B……B……B……あった! これだわ!」


 その声にユマも横から名鑑を覗き込んだ。小さな手が指しているのは、「ブランマルシェ男爵家」。


「ブランマルシェ男爵家……? どうかなさいました?」


 もちろんユマが首を傾げるのは当然だろう。領地が近いわけでもなければ家柄も随分差があり、ロッテンバーグ公爵家〈ウチ〉とは特に親交があるでもない家だ。

 直轄の領地はなく、王都住まい。家族構成は当主と夫人と、まだ幼い息子の三人。信仰心が熱く教会や孤児院にも寄付を多く送っている。

 その中で寄付額が一番大きい街は……


「ここね……」

「ここ? 何がです?」


 ずっとユマが不思議そうにしているがうまく説明できそうにないので無視しておく。


「ユマ! 私出掛けたいところがあるの!」

「えっ、急にですか? どちらへ……」

「カラドスよ!」

「ええっ?!」


 ユマが驚くのも無理はなかった。カラドスは王都から南西にある地方の街だ。それなりの大きさの街ではあるものの、観光名所と言うわけでもないし一般的な貴族の旅行先にあげられるような場所ではない。

 ただ大きな教会と併設された孤児院が立っているだけの街。この教会に併設された孤児院が、恐らくヒロイン・ケイトの居場所……のはずだわ。


「突然どうしたんです? ご旅行ならもっと別のところが……」

「違うのユマ、旅行じゃないの。私も王太子妃になるんだから、慈善活動とかやっていったほうがいいと思ったの! カラドスには大きな孤児院があるでしょ? だから行ってみたいと思って!」


 というのは建前で、実際にはそのカラドスの孤児院にケイトがいるかどうか確認しに行くためだけどね! もしいなかったらほかの所を探さないとだし……いるなら今のうちから仲良くなっておきたいし。

 そんなこととは露も知らないユマはと言うと、


「まあ、お嬢様……!」


 胸の前で手を組み、感無量と言わんばかりの声を上げている。


「なんて素晴らしいお心がけなんでしょう! こんなにお小さいのにもうそんな将来のことをお考えだなんて! ユマは感激いたしました!」


 目を潤ませてそう言うユマ。ちょっと罪悪感を感じるけど、この際そういう事にしておいた方が都合がいいよね。

 寄付は本当にするつもりだし……もちろんお父さまに確認を取らなきゃいけないけれど。


「では早速旦那様に許可をいただきにまいりましょう! 名鑑はもうよろしいですか?」

「ええ、いいわ。返してきてもらえる?」

「もちろんです」

「カラドスには出来るだけ早く行きたいわ。出来たら今日、無理なら明日……お父さまが渋るなら私が説得するわ!」

「なんてことでしょう、お嬢様……! 素晴らしい慈愛のお心ですわ! このユマにお任せください! 必ず旦那様から許可をいただいてまいりますからね!」


 ユマはそう言うと、重い名鑑をぐっと抱え上げた。持ってきたときより随分軽々と持っている気がするのは気の持ちようかな。

 決意を胸に……と言っていいのかわからないけど、とにかく力強く宣言したユマはそのまま部屋を出て行った。


 ふう……。これでひとまずケイトの確認ができるわね。カラドスにいてくれたらいいんだけど……。

 ユマが出て言った部屋の中で、改めてドレッサーの大きな鏡に映った自分を見る。


「うーん」


 改めて、マジマジと鏡を見つめる。キラッキラの銀髪だ。キラッキラの碧眼だ。すごいすごい。ゲームアバターでもないのにこれがデフォなんて。


「すごい、本当に可愛い」


 自分のことながらそう呟いてしまう。だって可愛いんだもん。

 ゲームに出てくるアルスリーナは15歳くらいだったからすでに「美しい」という形容詞の方が似合っていたけれど、今の私は7歳。

 お父さまがデレッデレで「奇跡の美少女」と吹聴していたのを親バカだと思って聞き流していたけれど、そう言われているのも頷ける。

 ゲームキャラ……と言ってしまうのは実際に自分が自分の意思を持って生きている手前不思議な感覚なのだが、流石人気イラストレーターのデザイン……と思わざるを得ない容姿だわ。


 アルスリーナ……。

 この国随一の貴族の娘で、王子の婚約者。王子ルートでヒロインと敵対する令嬢。

 王子との仲を深めていくヒロインへの嫉妬のあまり、排除しようとしたり直接対決したりするけれど、所謂ワガママで自分勝手でヒロインに散々嫌がらせをして婚約破棄される典型的な「悪役令嬢」とは違い、最初は貴族ばかりで右も左もわからないまま学園に入学したヒロインにもそれなりに対等に接してくれる。

 しかも、他のキャラのルートに入ると一度も対立しないで終わる。

 王子ルートの時だけ、徐々に王子の心がヒロインに向いていくにつれ少しずつヒロインへの態度が変わっていき、最後には障害となって立ちはだかる……。

 思えば彼女だって王子を愛していたはずなのに、そこに突然現れたヒロインのせいで何もかもがおかしくなっていくのよね。

 自分がプレイヤーだった時はシナリオ上の設定だし演出の一部くらいの気持ちでいたけど、実際に自分がその立場だったらたまったもんじゃないな。

 だって後から出てきて彼女がいる男に話しかけて最終的に彼女のポジションを奪うってことでしょ? 普通に友達がそれされてたら彼氏とその女を非難するよね。

 そこに行きつくまでに排除しようとかそういう動きが入ってくるのは流石にやり過ぎ感が否めないから一方的にどっちが悪いとは言い切れないけど!


 ゲームのアルスリーナは確かに王子を愛していたはずだけれど、王子との温度差は確かに感じた。彼女なりに愛はあったのだろうけれど、それは王子自身の孤独を埋めるものではなかった。

 そこからアルスリーナとの間にはどんどん温度差が生じ、しかし激情型のアルスリーナはその温度差を認められず、王子との関係は徐々に悪化していく。

 はぁ……。いざ自分がその立場だと言われると何とも複雑だなぁ。


 ヒロインがいなければ、アルスリーナと王子の仲にはさしたる亀裂が入ることもなく、彼女は順風満帆な人生を送っていたんだろうか。

 私はトラヴィス様のことは、推しとして幸せを見守れるのであればそれでいいと思っているけれど……。

 今はそうだけど、そのままでいられるんだろうか。

 実際にヒロインが成長して目の前に現れてトラヴィス様と仲良くなっていく過程を見ても、同じように思えるんだろうか……。

 いや、私夢女じゃないけど。

 どっちかっていうと腐の方面のほうが応援しやすいかもしれないんだけど!


 とにかく、何をどうしたかボーナスステージのような第二の人生(?)を与えられたのだから、今度こそは推しを存分に推しまくって幸せに暮らしたい。

 せっかく推しの人生に関係できるのならば全力で推しの人生を幸せにしたい。相手がヒロインか自分かなんてのは些細な問題だ。

 そう! もっと何百倍も推しを理解してずっとそばについていた人物がいるじゃない! 乳兄弟かつ話し相手かつ護衛とかいう、とんでも仲良し設定モリモリの、サイラス・ノックノットとかいうイケメンの騎士が?!?!

 人間不信の王子様が唯一ヒロイン以外に心を開いていたというそのお相手のイケメンが??!?!

 女性向けゲームにもかかわらず腐女子人気も高かったこのゲームで、この二人は王道の組み合わせだった。かく言う私も正直そこ、推しCPでした……!

 あ~~~~~この世界にそういう概念があるのかわからないけどイケメン二人を並べて愛でたい! 私はおろかヒロインですら邪魔してほしくない!

 なんなら子供のころからそういう文化に触れさせればヒロインもこっちの世界に引きずり込めない……? 無理……?

 まあヒロインが転生者とかで敵対してくる可能性、めちゃくちゃあるからね……。

 私としては推しは愛でるものだから推しCPの背中押す幼馴染女ポジが一番居心地いいんだけどな。

 これからしばらくはトラヴィス様とサイラスと一緒に行動することが増えそうだから私はでしゃばらずに二人の仲を眺めていたいものですね……。

 はあ、オイシイオイシイ。

 ヒロインが転生してる腐女子で同じCP推しだったら一番いいんだけどな……。


 なんてことを思いながらユマの帰りを待つ。しばらくして戻ってきたユマは、「許可!! とったどー!!」と勝鬨を挙げんばかりのどや顔であった……。


 と言うことで、いざ、邪な思いは置いておいて、カラドスへ出発よ! 

 流石に今からは無理って言われたから、明日だけどね!

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