第1話 金欠バンドマンと面接の罠

「佐藤さんですね?この度はアルバイトご応募ありがとうございます!」


サービスカウンターの前で突っ立っていた俺にやんわりとした口調で話しかけてきたこの人が店長らしい。


「こちらで面接を行います。」


金がないなら働けばいいじゃない。

今日は大手家具屋のアルバイト面接だ。


流石は大手企業。こんな辺鄙な田舎でも時給は驚愕の1170円。短期契約というのが気がかりだが高校生の俺にとってこの時給は魅力でしかない。

週20時間で1170×20=23400

1ヶ月で23400×4=93600

2ヶ月で93600×2=16まん7せん...


「それでは面接を始めます。」


おっと、妄想が膨らみすぎた。

この破格のバイト、さぞかし人気に違いない。俺はこの日のために様々な対策をしてきた。

・新しい靴(13000円)

・清潔感のある服1式(10000円)

・良さげなカバン(15000)


あれ?


「そこ座って」


考えないようにしよう。


それにしても急に無愛想だなこの店長。不安になってきた。


「えーと、まずは学生さんということで、、学校に許可はとってますか?」


「はい、もう既に!」


ー嘘である。面倒くさいし、そもそも原則禁止だ。ー


「では、早速ですが何曜日にシフト入れますか?」


「月曜と土曜以外なら全て入れます」


「なぜその日は入れないのですか?」


「学業の都合上、その日は勉強にあてるためです」


ー嘘である。月曜日なんて憂鬱な日にバイトなんて馬鹿げてる。土曜日は休日なのに時給が上がらないことは調べが付いている。(このシステム今でも意味わからん)ー


「部活などは?」


「軽音楽部に入ってます」


ーこれだけは本当。俺はベースを担当し仲間と楽しくやっている。金欠の原因その1、バンド活動とその機材ー


「短期での応募ですね。なぜ長期ではなく短期なのですか?」


「1度仕事をやってみて、自分の実力を知ったあと、長期で働きたいと考えています」


ー嘘で(ry 。時給が高いからに決まっているだろう。俺の18万7せん..ー


「・・・」


ここで店長が急に黙り始めた。嫌な予感が急激に加速する。


重い空気の中、店長はニヤリと笑っているような顔でようやく口を開く


「えーとですね、、正直採用は他の方と比べると厳しいという印象ですね」


ー???ー


「学生さんですし午前中入れないですよね?短期で欲しいのは午前働ける人なんですよね」


ーそんなの聞いてないー


「ただ、長期でならまだ採用できる可能性は高いと思います」


ー....なるほど完全に理解したー


そう、高時給の短期枠は応募者を釣りあげるためのフェイク。これよりも安い長期契約を結ぶように面接で誘導する極めて悪質な手口だ。


ー長期か、、でもバイトはしなければいけないし、、まあ元が高過ぎたんだ。多少時給が下がってもー


「まあ300円も時給違うのは大きな違いなので今急に言われても困るでしょうけど」


ーは?ー


「なるほど、、そうですか、、、」


ー下がり過ぎだろ?!300円となると1ヶ月で、、、24000!

そもそも時給870円ってふざけてるのか?ー


ここで店長の悪魔の一言。


「まあ悩みますよね。一応短期で応募してその滑り止めとして長期という形で申請しましょうか?」


この時辞めとくべきだった。後に俺は後悔する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金欠バンドマンのアルバイト日記 ノンシュガー @Non-sugar_sato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ