金欠バンドマンのアルバイト日記

ノンシュガー

第0話 金欠バンドマンとその始まり

小さい頃から親の言いなりだった。お年玉は親に回収され、やりたくもない勉強も黙ってやっていた。


不満なんてなかった。お金は無くなっている訳では無いし、勉強は得意な方だった。


でも、それを良しとは思わなかった。口座のお金はただの数字でしか無く、勉強はなんのためにやってるのかも分からない。


嫌いなものは無かった。両親は褒めてくれた。


好きなものも無かった。嫌いなものが無いなんて褒められたものじゃない。自分の気持ちが分からないことの裏返しだ。


こんな俺だけど中二の時やっと見つけたんだ。

今思えばある種の厨二病だったのかもしれない。


本当にやりたいこと。後先のことなんか放り出して、夢中になって追いかけられること。


音楽、漫画、アニメ


何も特別な趣味じゃない。それでも俺にとっては新しい風だった。


CDを買うだけでは飽き足らず、ベースを買った。エフェクターをそろえる度にさも自分が上手くなったかのように感じた。

コミックスだけでは飽き足らず、月刊誌を定期購読した。4コマ漫画は何故か900円ほどと高い。

テレビに張り付くだけでは物足りない。円盤を買い、ライブにも行った。関係ないがラブ○イブのブレードは何故あんなに高いんだろう。


生真面目に5年間貯めたずっしりとした貯金箱。底が見えるようになるには半年もかからなかった。


口座のお金はただの数字だ。減っている自覚なんてなかった。気づいたのは16年間のお年玉がガキの小遣い程度まで減った時だ。


新譜を眺めることしか出来ず、ベースの弦は錆び付いてきた。ベーシストに歪み3つはいらない。

定期購読を打ち切っても、追っていた作家は新刊を出す。買わねば。

アニメはテレビ放送に張り付き、サブスクに入る余裕も無くなってきた。仙台でライブが少ないのは何故だろう。東北民はチケット以上に交通費がかかる。


好きなことが出来ない苦しみを味わった。


俺は決意した。


履歴書を握りしめ、重い足を引きずり進む。

「アルバイト面接の佐藤です。」


やりたくは無いんだけどね。しょうが無いね。

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