梦吊伽の狂気

いい子を演じるエンジェルの受難

「ずっとあの庭園で跳ね回っていられたら良かったのに」

桃源郷は遠くへ行ってしまいました


天使には二通りの種類があります

まずは常識のない純粋無垢な個体

良いことと悪いことの分別がつかない

だから暴力も振るうし暴言も吐き放題

常識がない

異端者 異教徒 邪教徒

huh 

或いは繊細で優しい個体

そう優ssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssss……

いい子を演じるエンジェルの受難

心を小箱に閉じ込めて絶対に触らせない

宝石の箱を撫でる魔物の手をあしらって

毎日毎日 千切っては投げ千切っては投げ……

誰にも触らせない 誰にも触らせたくない


ssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssss触らないで!!

垢の一つも付けたくない

彼ら彼女らは暴力的な天使()に毎日殺されてしまって急速にその数を減らしている

「やだ、私こんな奴らと一緒にされたくない」

そう言った彼女の羽をもいで千切って弄んで楽しいですか

前から思ってたんだけど

ねぇねぇ君って本当に天使?

あ 触った

ねぇ

ほんとうは悪魔なんじゃない……

刃物を研ぐ音が聴こえる

ねぇ 私に余計なこと吹き込んだ

君も悪魔?


眼圧が高くなっていく

耳の奥が熱く疼く

鈍痛で顎が外れそう

それは羽がもげることよりも痛い 痛いことだ

小箱から緑の錠剤を取り出す

悪魔の手が蓋に挟まる

吐き気がする

私に触らないで 気持ち悪い


息切れ 吐き気 腹痛

大切なものを小箱から取り出す度に天使の手が伸びます

同じ顔をしてる癖に思考も態度も気持ち悪い

さいあく

綺麗な宝石が埋め込まれていた小さな箱はひしゃげてしまって見る影もない

ルビーもサファイアも全部盗られました 私はあんなに大切にしていたのに

大切にしまっておいたはずの私の心は引っかき傷に塗れてしまった

また治るだろうか 私は古傷と生傷でぼろぼろの心臓を手に取ります

また新しい箱を貰わなければ

何度壊されたかわからない

神様は不器用な私に愛想を尽かさないだろうか

くそ!

いますぐ死になさい

こんなことになったのは

あいつらのせいなんです


汚れた穢いグロテスクなあんな生き物と一緒にされたくないわ

はっきり言ってくださる? 

彼らの爪が私の肌に食い込む

食い込んだ爪は骨まで届いて私の足を動かなくさせる 脳まで届いてしまったらどうしてくれる!!

神様、あいつら全員堕天させて

ssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssssてくれないなら 私が


美術館は今日も賑わっています

特に廊下の真ん中に飾られたあの大きな絵画は皆の注目を独り占めにしている

他の作品たちは恨めしそうにそちらを眺めている

ある彫刻は腰を捻って今にも彼女に殴りかかろうとして

そんなことをしたって意味なんて生まれないのに 馬鹿だなぁ

私もその絵の前で足を止めます


私の辛さは伝わらなくていい

ただこの絵に描かれた天使の辛さだけをわかってもらえればそれでいい


彼ら彼女らがずっと穏やかでありますように

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