とある拳銃の行方

@tukigadeta4713

第1話

寂れた荒野の、片田舎。


さしこむ朝日。壁に掛けられた拳銃たちが、ほのかに鈍く、しかし鋭く。その鉄色が、まばゆく反射している。


店主は、奥にいた。

年季のこもった銃器に囲まれ、パイプを口に銃器を磨く。この初老の男が店主である限り、変わらぬ日課だ。


買われるか、否かは、時の運。

買われてから先のことは、預かり知らぬ。ただ己は淡々と生きるのみ。

そんな言葉が聞こえそうな、頑固が染みた姿であった。


扉が軋んで、人が来た。店主が目だけを、そちらに向ける。

初老の男、おそらく店主と同年、もしくは上か。眼光、鋭くありながら、その光には翳りがある。

私は、老いた。歳をとったのだ。

そう口にするのを、気力のみで抑えこみ、しかしながら隠しきれない。そんな様子がうかがえる。

それは鷹の目だ。

しかし、老いた鷹の目だった。


「久しいな」


店主は語りかけ、しかし老人は語らない。

代わりに、老人は腰に巻いたホルスターから銃を取る。

朝日を浴びて、鈍い鉄色が光を放った。


銃はそのまま、机に置かれた。

乾いた音がする静かな動作に、銃に対する思い入れがにじみ出た。


「買ってくれ」

老人の言葉に、店主の口からパイプが落ちる。

我に返るとパイプを咥え直し、銃を改めて見物した。よく使い込まれている。手入れも怠っていないようだ。

だとすると。


「引退か?」

「……殺さなくていいハズのやつを、撃ってな」


老人はそれ以上、語らない。

店主は黙って金袋を取り出し、老人はそれを受け取ると背を向ける。

一言だけ、店主は声をかける。


「変われるのか?」


老人は答えなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


昼になり、店主は銃の解体をしていた。手入れもされない銃器など、危険極まりない。それは殺意を消化できない酔いどれと変わらない。


扉が軋んで、人が来た。店主が目だけを、そちらに向ける。


若年の男、それも店主からすれば、息子ほどの年齢。

眼光、鈍くありながら、その翳りは激しくたぎる溶岩のように光っている。

殺意だ。

殺さずにはいられない。

目が、強くそう訴えていた。


若者は店内を見まわした。そして吸い込まれるように、一丁の拳銃に目を止める。

よく使い込まれた拳銃だった。

一心にそれを見つめた若者は、金袋を机に投げる。かなりの額だ。


「足りるだろ?」

「……殺したい相手でもいるのか」

「家族を殺した奴が、この町に来てる」


銃を手にすると、若者は足早に店を出て行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夕日が、壁に並ぶ銃器たちを照らしている。

鈍く、重く、光を放つ鉄色の塊たち。


店主はそんな銃器たちに囲まれながら、パイプを口に新聞を開いていた。


扉が軋んで、人が来た。店主が目だけを、そちらに向ける。


幼い少年、だった。それも店主からすれば、息子ほどの年齢。

目が、輝いている。

先への不安より、先への希望。未来を無邪気に信じるからこそ、翳りない瞳。

少年は宝の山でも見るかのように周りの銃器を見まわした。


「じいさん、少し見ていっていい?」

「帰れ」


次の瞬間、外の遠くから銃声がした。

少年が驚いて飛び出して行き、店主はため息と共に新聞を置く。


変われる、否かは、時の運。

変われてから先のことは、預かり知らぬ。ただ己は淡々と生きるのみ。


それでも口にするパイプで味わうタバコの味は、いつもより苦く思えた……。




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