第20話 残されたもの(3)
「それより
「さっき」とは、
流石にアレは
興里那は刀を二振り持っている。よって一振りくらい貸してくれるだろう。
だが――
「は? なに言っちゃってるの龍惺くん。幾ら君の頼みでも素人に貸すワケないでしょ。そもそも基本の『
「あ……はい。ごめんなさい」
ハイライトが消えたような瞳に見据えられ、ちょっと――いや、かなりドン引きしながら、だが比べる対象の比喩表現に相当な
「ふん。判れば良いのよ」
素直に謝る龍惺を尻目に、リアドアを開いて太刀を取り出しながらそう言う興里那。
つーか、なんで
海賊王に俺はなるな仲間の剣豪よろしく咥えるのか、はたまた戦国な
あとなんで比喩として比べる対象が、可変翼搭載で超音速飛行が可能な戦略爆撃機と、単発式だけど小型だからお手軽に収納出来る某大統領を暗殺した実績持ちの拳銃なんだよ。
兵器と武器とじゃあ比べる対象として明らかにオカシイよね。同列にすら並べないよね。
そもそも刀の
そんな益体のない、若干どころか凄くどーでも良い考えが色々浮かぶ龍惺に、興里那はその太刀を差し出した。
「貸したげる。これならきっと壊れないわ。なにしろジジイが『固定』の
あ、自分で使うんじゃないんだ。差し出している興里那と太刀を交互に、ついでに胡乱げに見ながらそれを受け取り、礼を言ってから早速抜いた。
「うわぁ……綺麗な
現物を見るのは勿論、手に取ることすら本来は出来る筈もない「超」が当たり前に付いている貴重品が手に収まっている事実に、一瞬気付かないフリをしようかと思った龍惺である。
だがその文化財産的な価値と実際に持っているという事実が重量以上に重過ぎるため、至極真っ当にツッコミを入れた。
「見事なノリツッコミね。流石は龍惺くん」
それに対しての返答がコレである。それの価値と持つことの意味を理解していないのか、はたまた理解した上でそう言っているのか――上司の
「いや別にノリツッコミしたワケじゃないから」
龍惺にしてみれば、そうしたわけではなく当然言うべき事項であるのだという判断だったが、興里那にしてみれば
それが判り、思わずジト目になる龍惺なのだが、興里那にとってそれは
「ああ〝小烏丸〟ね。例の〝世界統合〟の影響で源氏への怨念出しまくってたからジジイと一緒に祓ったのよ。あとは例によってビビって受け取り拒否されたから借りパク中。大したことじゃないわ」
かなりとんでもなく、それでいて全然大したことである。
「それなら相当乱暴に扱っても壊れないからね。ジジイが呪禁を彫んだ直後に鬱陶しいくらい自慢して来たから、イラッとしてついロードローラーで踏ん付けてみたの。それでも壊れるどころか歪みもしなかったわ。逆にローラー面が凹んで使い物にならなくなっちゃったし。ジジイの言う『固定』って分子構造そのものを『固定』するみたいよ。
「待って言ってるコトとヤったことが明らかにオカシイしツッコミどころが山積してる。まずなんで其処で唐突にロードローラーが出て来るのさ。それに『つい』でやって良いコトじゃないよね絶対」
「強度のお試しなら取り敢えずそれで踏ん付けるのが手っ取り早いでしょ。大丈夫。私、こう見えても
「何がどう大丈夫なのか全然判らないよ。あとなんでツッコミどころを増やすかな。なに? キャリア官僚って、デフォルトで大特取ってなきゃいけないの?」
「ううん。大特は学生時代にバイトで有用だから取っただけよ。A級は趣味ね」
「趣味でA級はまだ良いとして、バイトのために大特取るとかオカシイでしょ。それって本業のために取る免許だよね。なんで企画ものに出演する芸能人みたいなことしてるの。ちょい戻るけど、分子構造を『固定』する理論って何? 芙蓉姉さんがまたなにか仕出かしたの?」
「『企画もの』って、やっぱり龍惺くんも男の子ねー。そういうのに興味あるんだ」
「いやそういう『企画もの』じゃないから。そんなの観たこともないし必要ないよ。あと言葉尻を拾って広げるの止めてくれるかな」
わざとなのか無自覚なのか、おかしな箇所が気になる興里那であった。
彼女とてそういうものを知らないわけがない。研修がてら所轄に回されたとき、押収した「ソレ」の確認で延々観せられたこともある。
そのときに
「色々気になるのも判るけど――」
リアドアを蹴って閉め、二振りの刀を持つ両の腕をだらりと下げ――いわゆる「無形の位」をとりながら周囲を見回す。
「――それよりこの状況をなんとかするべきね」
目潰しを喰らった騎士を回復させ、次いで分厚い大盾を前面に出してジリジリと迫る近衛騎士を睨んで不敵に笑む興里那。
この人もしかして、ただの
口に出したら確実に否定され、且つ刀で殴られそうな失礼を考える龍惺だった。
そうやって二人で関連しそうだが関係なさそうな遣り取りをしているのだが、その間に菖蒲はというと――
「そう。せめてこの子らをなんとかしたいのね。貴方は本当に素晴らしい王なのね。え? 別に褒めてないわ。思ったままを言ったまでよ。でも、貴方の子孫がどうして『アレ』なの? ちょっと理解に苦しむわ」
そうするのが当たり前であるかのように、「見えない人々」とコミュニケーションを取っていた。
それはいつものことだし、必要だからしているのだろう。
正面で見えない椅子に座って何かを言っている、その姿が若干透けている王冠の美壮年や、同じく若干透けているローブの青年とか、やっぱり若干透けている額冠を嵌めたポニーテールの戦鎚を携えたまだ幼さが残る少女とか、若干透けているのよりフリフリでミニのメイド服を着ている方が気になる金髪縦ロールのガチムチのお兄さんとか――とにかく、様々な「見えない人々」が、菖蒲の周囲を囲んでいる。
足元には、そういえば一緒に居たなぁとうっかり忘れてしまうほど自然に、例の白い顔で金色に見える毛並みの狐が菖蒲から離れずに傍にいた。
こいつら――
「
全部
印を組んで真言を唱え、興里那から借りた〝小烏丸〟に
別に、既に肉体を持たない
ただこの、言ってしまえば危機的な状況下であるにも関わらず、幾ら菖蒲がその訴えが聞こえる奇特で貴重な存在であるとしても、許婚である自分を差し置きくっちゃべっているのは許せない。
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