第16話 混迷の涯に(1)
右に〝村正〟、左に〝虎徹〟を握り締めた私は、次々と襲い来る完全武装の兵士をバサバサ斬り倒す。
本来であれば、たとえ世界一の斬れ味を誇る日本刀でも、それがどれほどの銘刀であったとしても、そんなことは当たり前に出来る筈もない。
では何故そんな有り得ないであろうことが出来るのか。それはジジイ――上司の警察庁長官であり現役の陰陽道呪術師の
その呪禁は柄の内側、
「
である。まぁぶっちゃけ「何でもぶった斬れ」って意味だよね。
関係ないけど、〝呪禁〟と〝
ちなみに、その二振りを受け取り拒否した博物館に現在展示してあるそれは、ジジイの家が贔屓にしている刀匠が、端材を使ってお遊びで打った贋作である。
どれくらい似せられるかが楽しかったらしいけれど、私にとっては全世界の蟻の総数がどれくらいかという議論並みにどーでも良いことだ。
えーと。一千兆から一京匹だったかな。
そうして暴れ回っている私がアヤメちゃんに預けている端末から、着信音が聞こえた。
ワーグナーの「ワルキューレ騎行」。ジジイからの着信だ。でも戦闘中な私が出るのは無理なわけで、
「アヤメちゃん、私手一杯だから代わりに出て」
よって、ジジイの相手を押し付け――じゃなくて代わりに出て貰うように言った。
空気の読めるアヤメちゃんは、着信音に若干引いたみたいだったけど、私の意を汲んで通話を始める。
そして一言二言会話をしたアヤメちゃんは、どういうわけかスピーカーに切り替えた。
『
端末のスピーカーからジジイの呪禁が聞こえる。あれ、ジジイの九字切りだ。確かジジイの宗家オリジナルだったような。でも詳しくは知らない。興味ないし。
『
そうしているうちに、ジジイの呪禁が完成する。それと同時に、端末ケースに無理やりつけられているストラップの石が光り始めて浮き上がり、SUVに吸い込まれた。
なにあれ。ただの宝飾品じゃなかったの? 私がジジイに押し付けられて、常に着けてろって厳命されてるおんなじ材質っぽいネックレストップも、もしかして怪しいんじゃ……。
などと首元にぶら下がっているそれの出自を怪しんだ私を、一体誰が責められるだろうか。
そんな焦燥に駆られながら、でもその手を止めない自分をちょっと褒めてやりたいと思いながら、それとなくその現象を見ていると、
[〝
SUVが喋った。
なんだアレ? 一体なにが起こってる? そして何故にドイツ語? というか文法合ってるの? どーせジジイのことだから、文法全無視で「ちょっと良い感じに聞こえる」とかくっだらない理由なんだろうけど。
そんなやっぱり関係ない思考が浮かぶ私を尻目に、SUVのインパネが開いてフロントがグラスコックピット化する。
そして車体の下――シルっていうんだっけ? まぁどーでもいいや。とにかく、そこからジェットエンジン音が響き、周囲に突風を巻き起こし始めた。
当然、そんなことが突然始まれば、車両を見たことなどないばかりか事情を知らないしワケが判らない人々は動揺するわけで、殺気立って襲い来る兵士たちがその不可解な現象を警戒して、一斉に距離を取る。
それが当たり前の反応だ。挙句それが甲高い轟音を上げて垂直に浮き上がる
過ぎた科学は魔法に見えるとは、よく言ったものだ。
いや
まず燃料はどうした。このSUVは燃焼燃料と電力で動いている筈だ。よってこんな燃費の悪い挙動をすれば、間違いなく数分でガス欠になるだろう。
あ、でもこの車、どれだけかっ飛ばしても全然燃料が減らなかったよ。燃料計が常にフルで、バッテリーも同じくフルだった。
……そういえば、バッテリー計の下にもう一つ謎のメーターがあったな。アレってなんなんだろう?
その辺は後でジジイに詰問するとして、まず、四輪が水平になって、未来に戻る某映画三部作の時間移動する主要車両のように浮き上がって方向転換するSUVを、どうしてくれよう。
というか、さっき例の意味不明な機械がぶっ壊れて弾けた破片がぶつかりまくってたのに、ボディもガラスも全然損傷していないんだけど。
材質まで謎で意味不明だよ。一体なにがどうなっているんだこの車。あと、なんてモノ預けるんだあのジジイは。
そんなことを考えていると、
[御命令を。
誰が
「あ、の……
勝手に動き出して、あまつさえ中途半端なドイツ語で喋り出したSUVに動揺しまくるアヤメちゃん。
あ、ちょっと可愛い。S心が
それで何かをするわけじゃないけどね。
「さあ? ジジイのSUVだから、おかしな機能の一つや百個くらいはオプションで付いてるんじゃない……」
そう言い、でもちょっと考えて、
「付いてるんじゃなくて憑いていたりして」
S心のままそう言っちゃう私。いけないなぁ、可愛い
「いえ、『憑いて』いるわけではなく、これ自体に『意思』というか『意志』というか、とにかくそれが芽生えた、というのが正しいと思います。〝
「それっぽいね。じいちゃんの〝
……イジワルしようとしたらマジレスされた。そりゃあまぁ、そういうオカルトに関して私は素人に毛が生えた程度だし、生まれた頃からオカルトが日常なアヤメちゃんや龍惺くんには敵わないわよ。
そもそも、ナニソレ?
頭上にクエッションマークが乱舞して、混乱しているのが判ったのか、
「ええと、うん、とにかく自分で考えて喋る機械だよってことです」
「(ブフゥ)〝
アヤメちゃんが、物凄ーくざっくばらんに説明した。うん、それでもよく判らないから、そーゆーことにしよう。
判らないことをいつまでもグダグダ考えても、はっきり言って時間の無駄。
……そこ! なんで「
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