第14話 戦闘開始と傍観者(3)
ちょっと偏頭痛がしてきた私に代わって、リュウくんがそんなナイスツッコミをする。でも更に続けて、
「そもそもなんで
「ああ、これはジジイが『祓った』けど祟るかも知れないって博物館側が受け取り拒否したんだ。ま、良くあることだよ」
……原因というか、諸悪の根源は、現職の警察庁長官で現役の陰陽道呪術師な
あの人、確かに現職以外で昔から色々動いていたみたいだけど、強力な呪術結界が施されている筈の国立博物館すら受取拒否した妖刀を持ってるって、一体どういうことなんだろう。
いやそれ以前に、その祟ると云われている妖刀を二振り持ってて平気な興里那さんも、いい加減に大概だと思う。
余談だけど。〝世界統合〟以降、妖刀とか呪物とか妖怪変化とか死霊とかの動きが活発になっているんだ。
きっと異世界大陸からの魔力で活性化されたんだろうね――っておじいちゃんが言ってた。
そしてそれは興里那さんが言ったとおり、本当に「良くあること」になっちゃってたり。
「うふふふふふ。真剣を振るうのは世界遺産認定された某神社の依頼で『
アブナイ人がいる……。ううん、そうじゃないよね。ヤッさんが興里那さんをそういう風に育てちゃったんだよね、きっと。
こんなになっちゃって。一般人に嫁ぐのもう無理なんじゃ――睨まないで心読まないで興里那さん。きっと良い人が見付かるよ。
……多分。
「『こんなんなっちゃって。嫁ぐのもう無理』とか思ってるでしょアヤメちゃん」
言葉まで読まれてた!?
「それ、よく言われるけど、以降二度と言わなくなるわ。理由聞きたい?」
そう言い、右に持った村正を担いでニヤリと笑う。その笑顔が凄惨過ぎて、思わず両手と顔を全力で左右に振った。
『ほう。凄まじい〝鬼気〟だ。我が公国の近衛騎士団に欲しいな』
『いや公王様。我ら既に死んでおります』
『そうだった!』
そんな興里那さんを見て王冠のおにいさんがおかしなコト言い出すし。なにこのカオス。
「言っておくけどアヤメちゃん。女の幸せが結婚っていう認識は古いわよ。具体的には五十年くらい。それと、ちょっと邪魔だからこれ持ってて」
青白い材質不明な玉が九つ連なったストラップが付いているケースに入っている携帯端末を私の方へ放りながら、興里那さんを大層気に入ったらしい王冠のおにいさんなど歯牙にも掛けず、まぁ見えていないし声も聞こえないから当たり前だけど、とにかく興里那さんはキッパリと言い切った。
そんな茶番を繰り広げているうちに、立ち直った兵士さんたちが剣と丸い盾を構えて動き、私たちを完全に包囲した。
これってどうしたらいいんだろう。考えるまでもなくいきなりこんなところに召喚? されて、殆ど――というか説明一切なしで事態が進み、挙句に兵士さんたちからは本気の殺意を向けられている。
どうすればいいの。誰か説明して欲しいと切実に思う。
そんな私の願いも虚しく、兵士さんたちは包囲の輪をジリジリと詰め――
「
――でもその前に、印を組んでいたリュウくんが真言を完成させた。
その効果はすぐに発揮され、リュウくんを起点として
全てというのは比喩でも誇張でもなく、射線上にある生体だろうが物体だろうが霊体だろうがその全てを包み呑み込んだのだ。
――
一切の邪気邪霊を滅する、不動明王の焔を呼び出す呪法。
それにより発生したそれは、燃料となる可燃物が無いにも関わらず
でも術者であるリュウくんは元より、傍にいる私と
知らない人にとっては不可解な現象だろうけど、知っている私たちにとっては当たり前の現象だ。
それに、魔法だって同じようなモンでしょ。つまり、この呪法は効果範囲を選択出来るのだから。
焔に包まれたその範囲内にいる兵士は、悲鳴を上げながら火を消そうと転げ回ったり
でもそうしたところで、それは一般的な火ではないからどうにかなる筈もなく、やがて絶望の悲鳴を上げながら息絶えた。
その
薄情だとか残酷だとか、或いは人でなしだとか言われるかも知れないけれど、この場に
いったい、この場で何人を殺めたのだろう。この数を見る限り、少なくとも四桁近くが此処で息絶えている。
因果は巡って己に還る。いわゆる因果応報だ。
まぁそれが
……あれ。でも、興里那さんって、私たちと違って視えない筈だよね。でも全然驚くどころか反応すらしていないんだけど。
そう考える私のキョトン顔に気付いた興里那さんは、やれやれと言わんばかりに溜息を吐き、
「アヤメちゃん。警察ってね、色々なモノを見なくちゃならないのよ。だから多寡が焼死くらいで動揺なんてしないわ」
……警察の皆様、お疲れ様です。
「あと明らかな殺意を向けて来る相手に自衛しないなんて、それは平和主義ではなく命を粗末にしている只の間抜けよ。なんでそんな下らない思想のために命を粗末にしなくちゃいけないの? 脳ミソ腐ってんじゃないの? 戦わなければ生き残れないのに」
若干どころか相当不愉快そうな興里那さん。それ絡みで過去に何か嫌な出来事にでも遭ったんだろうか……。
リュウくんが放った
あとそうなったのは「この場にいる人々」だけではなく、この場にいる「見えない人」たちもそうなっちゃった。
つまり、怨霊や悪霊に成っちゃっているのや成り掛けているのを、根刮ぎ祓ったんだよね。
でも――
『おお。なんという温かな焔だ。悪霊を選択して屠れるとは。このような
『いや公王様。我ら既に死んでおります』
『そうだった!』
それを見た王冠のおにいさんがさっきと同じことを言って、部下らしき人にツッコミを入れられている。もしかして愉快な人なのかな。
それより、リュウくんの焔に包まれているのにおにいさんやその周りの側近らしき「人たち」や、そして何故かエロメイド服を着ているガチムチお兄さんも、全く被害を
リュウくんの呪言の効果があまりにアレだった所為か、私たちを取り囲んでいる兵士が二の足を踏んでいる。
このまま見逃してくれるのが一番良いんだけど、そんなわけにはいかないだろう。
その証拠に、兵士の背後にいるキャソックの人たち――神職かな?――まぁその人たちが、何やらブツブツ呟いている。きっと何か魔法の準備をしているのだろう。
「
それをリュウくんも感じたのか、素早く印を組んで、最後の隠形印の直後に抜刀の構えを取る。
どうしてさっきと字面が同じなのに読みが違うのかというと、機械が破裂したときにリュウくんが使った九字切りが
何が違うのかは具体的に知らない。もしかして、単に九字印を組むか九字切りをするかの違いかも知れない。
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