/ Side Y d e


     ***


 まるで、時間がユキトとアリスにだけ流れているような、そんな錯覚を覚えていた。

 本当に錯覚なのか、現実か、あるいは、神々が施した最期の悪戯なのか。

 分からない。


「ユキト……。ねぇ。ユキト……ッ。起きなさいよ……ッ!!!」


 泣き、そして、叫ぶ。

 アリス。

 ああ、キミも、ボクの最期を理解はしているのか。

 良かった。

 心の底から、ユキトは、安堵していた。

 最期の言葉を交わせる、その事実を、嬉しく思う。

 大事な時間だ。


「起きてはいるさ……。ただ、目を開けられないだけで、ね」


 そう告げれば、より一層に、アリスはユキトの身体を強く抱きしめる。

 逃さない。

 そう、主張でもするかのように、力強く。


「馬鹿なコトを言わないでっ!!」

「馬鹿はキミの方だろう。まったく。何度言えばキミは分かるんだい……?」

「え……?」

「駄目なんだよ。アリス。そのままじゃ――……」


 閉じた目、それでも、ユキトは小さく微笑んだ。

 子どもの間違いを指摘するかのように、ただ、優しい言葉だった。

 アリスの手を、力なく、ユキトはそれでも精一杯に包み込んだ。


「〝キミは。その方向へ。振り切っちゃ駄目だ〟」


 力強く、美しく、気高い存在で在り続けなければならない。

 神々は関係ない。

 笑っていれば良い、それが、どんな形でも。


 〝スマート〟に、ソレを口酸っぱく言っていたのは、キミが大事だから。


 そう言って、ユキトは、笑うのだ。


「貴方がいない。そんな世界になんて。意味がないのよ……ッ!!」

「そうだね。分かってる。だからさ――」


 穢れは、ぜんぶ、ボクが引き受ける。


 先に逝って、待っている、その先にきっと世界は在るから。

 その世界で。

 今度は、きっと、幸せに――。


「ユキト……?」


 すうっ、と、静かに彼は呼吸を止めていく。

 動かない。

 眠るように。


 安らかに、穏やかに、彼は息を引き取った。


 もう、言葉も、色も、熱もない。

 ただの、骸、ソレだけ。

 慟哭。


「あぁ――……。ああ、ァあああアァ――ッ!!!!」


 空気すら震える、その感覚に、悍ましい狂気を覚えた人間が二人いた。

 剣王と皇帝。

 関係ない。


 たった一人、青年のために、涙を流して叫びを上げ続ける。


 少女の姿。

 その皮を被った魔女である、と、殺戮少女は長らくそう噂されていた。

 生ぬるい。


 今の彼女は、もはや、人の形をした狂暴な化物、そのものである。


 目の前の二人を絶対に殺す。

 それだけを考える。

 〝殺戮少女おんなのこ〟。

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