Ⅷ:終わりの足音 - 災禍 -
〝決戦〟 / 業火の小屋
パチパチ、という弱い表現では到底敵わない、燃え盛る炎であった。
業火、小屋の中を瞬く間に破る勢いで、広がっていく。
ただ、小屋の中に二人の存在――青年と少女――が残っている。
取り囲むように、兵士たちが、襲いかかる。
だが――。
殺す。
殺す。
ただ、ひたすらにソレだけを考え続け、他のなにかをすべて捨て去っていた。
「ひっ――……!!」
目の前の兵士が、なにを思おうが、別にユキトにはどうでも良いのだ。
薙ぐ。
導線でも裂くかのように、ただ、淡々とその首を刎ねていく。
「(そういえば――……)」
ふと。
血の嵐が吹き荒れる中、彼は、神の放った言葉を思い返していた。
〝
そう言っていたのを、ユキトは、確かにその耳で聞いていた。
「神々が謝罪をする――。異常だけれど。ソレ以上におかしなコトがあるだろう」
チラリ、と、視線をアリスの方へ向ける。
呆然と佇む
信じていた者に裏切られ、最悪の状況を告げられ、その心情は
「(だとしても。ソレでも。ボクは――……)」
「死ねぇえぁッ――!!」
「はあ……。まったく。うるさいよ」
邪魔をするな、と、叫ぶ兵士の
声の代わりに出るのは紅い液。
黙っていろ、と、無言の暴力で止めたのだ。
そして――。
「アリス。早く。銃を取るんだ」
「……?」
「キミが呆然とする気持ちは。分からなくもない。ソレでもね――」
気持ちは一つ。
願い。
彼が想う答えは一つなのだ。
「キミが笑っている姿を。ボクは少しでも長く見たいから。そのためには生きて貰わなきゃ困るんだよ」
「…………」
「ボクに〝形〟を要求したのはキミだ。だったら。相応にキミにも生きる義務がある」
「義務……?」
「大切な人が死ぬ。そんな姿を。見たい人間がいるとでも?」
「……わたしのこと?」
「おいおい。他に誰がいるんだい?」
ふふっ、と、ユキトは小さく微笑んだ。
異常な光景である。
血漿と臓物と怒号が溢れる中、ソレでも、彼は平然と笑っている。
ぽん、ぽん、と、少女の頭を優しく撫でる。
励ますかのように。
「ボクがいるから――。キミは。最期まで一人じゃない」
忘れないで、と、言葉を継げる。
ソレから。
銀の剣で彼は
抗う覚悟をその場に示すかのように、彼は、威風堂々と身体を向ける。
敵がいるであろう、その、
真っ直ぐに。
「キミがボクを守らないと。他の誰がボクを守るって言うんだい。そもそもの話で」
「ねぇ。普通は逆じゃないかしら。ソレって」
「お生憎様。ボクは普通の人間なんでね。銃で撃たれれば普通に死ぬさ」
「そういう意味では――。今の私も。同じだけれどね」
「……?」
その言葉に違和感を抱くも、しかし、ソレを確認する時間は与えて貰えない。
後続。
兵士たちの増援が再び投入される。
「行けるかい? アリス」
「ええ。私はいつでも平気よ。――ほら」
ごそごそ、と、ドレスの背中に伸ばした手、掴む、いつもの突撃銃である。
銃剣も付いている。
おかしい。
「……――キミの服はさ。ボクが昨日寝ている間に着せてあげたんだけど。な」
「あら。レディのお洋服を弄るだなんて。ふしだらねぇ」
「いや。違うんだ。そうじゃなくてだね」
どうして、その服の中から、銃器の類が出てくるのだろうか。
容量的にも、原理的にも、すべてがおかしい。
否、突っ込むだけ無駄というもの、
「それじゃあ――。行くよ。アリス」
「ええ――。援護は任せなさいな。ユキト」
〝殺戮少女〟は〝二人〟で〝一つ〟である。
互いが在ってこその殺戮少女。
逆に言うと、揃ってしまえば、ソレは噂通りの化物である。
「ご苦労様。それから――。おやすみなさい」
一瞬で間合いを詰め、そして、脳天に銃口を突き付ける。
相対する兵士は、なにが起きたのかも、理解するコトすら不可能だったろう。
その所業、秒数にして示すコトすら困難、不可能だった。
アリスは、引き金を絞り、銃を撃ち放つ。
辺りを震わせるほどの、轟音、銃声が響き渡る。
そして、紅い、華が咲く。
薔薇、である。
片や。
「疾く。去ね」
残す言葉一つも許さない。
閃光。
銀色に輝く剣閃が縦横無尽に辺りを埋め尽くす。
薙ぐ、その剣の先には、切れ端となった人の身が堕ちていく。
後に、血漿、雨あられ。
立つ、ユキト、その姿は修羅の末路か。
赤の絨毯、である。
すべての兵士を、血、海の底に沈めた。
そして――。
業火、その間隙を縫って、二人は手を取って走り出す。
焼け焦げ、崩れ始める小屋の、入り口――出口――を一目散に駆け抜ける。
無傷である。
血を浴びて、なお、平然とした姿を保っている。
青年と少女。
否。
〝
「まあ。派手にやってくれたもんだ。キッチリお返しはしないと。ね。アリス?」
「ええ。そうね。ユキト」
威風堂々たる黒衣の二人。
その姿。
悪魔の如しである。
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