帰路


     ◇


「特に目新しい情報はなし。かな」


 サチュルの情報屋はあらかた当たり尽くした。

 想定の範囲内。

 驚くような情報は一つとしてなかった。


『アンタ――。よく平然と〝殺戮少女アンノウン〟の話を聞いていられれるねぇ?』


 と。

 呆れ混じり、そんな様子の言葉を情報屋から受けるが、大して気にはしていなかった。

 死体の状態など、身内のアリスからしてみれば、大抵が可愛らしいものである。

 八つ裂きどころの騒ぎではない。

 恐らく、世界中でもっとも激しい殺し方をするアリスは、〝西方のアリス〟に違いない。

 踏み殺すとか、握り潰すとか、千切るとか、そういったコトを平然とやってのけるのだ、ユキトの知るアリスとは。

 比べてしまえば他のアリスは大したコトがない。

 ともあれ。


「剣を使う。鎌を使う。槍を使う。あるいは――。魔法を使う。異形の姿。etcエトセトラ...」


 世界に蔓延る、アリスとおぼしき存在の、殺しに使う特徴である。

 魔法、異形、は――恐怖の伝承から飛躍した形だろう。

 確かに、ユキトの知るアリスも、銃剣の突き立てで爆発――衝撃――を起こしたくらいだ。

 有り得なくもない話である。


「その中で。ボクの知るアリスは銃器を扱う訳だが。はてさて――……」


 武器の選択に意味はあるのか。

 否か。

 そこまでを考え始めると、もはや、論点の収拾が付かなくなる。

 容姿。

 少女の皮を被った魔女である、と、そういう噂程度しか存在しない。

 実際、他のアリスは、どのような見た目をしているのだろうか?

 そもそも、少女であるのかすら、分からない。


「なんて――。考えたところで。想像の域は出ないよね」


 ユキトはアリスの側を離れられない。

 〝寂しい〟。

 そう言う少女を放って何処かへ行くことはできないのだ。

 側にいる。

 そう誓ったのはユキトの方なのである。


 ……――アリスを一人にすれば、恐らくは、収拾が付かない暴れ方をして殺し回るだろう。


 そんな姿は美しくない、ユキトは、そう考えている。

 故に。

 西方の地から調べ回る程度が限界なのである。

 〝他のアリスに会ってみたい。〟

 そう思う気持ちはあれど、今は、諦める。

 ソレ以外に道はない。


 と、そこまでを考えて、いつの間にか夜が近くなっているコトに気付いたのだ。



「そろそろ。帰るかな。宿に」


 大半、半日でも放置をすると、半泣きをしているアリスが膝を抱えて待っている。


『遅いのよ……。ユキト』


 と。

 涙をこらえて怒る少女の姿が目に浮かぶ。

 普段の横暴な態度とは違い、実は、アリスは寂しがりで弱いのだ。

 くすり、と、ユキトは小さく笑った。

 愛しき子を、想い、馳せる。


「女の子を泣かせちゃ。駄目だよね。男としては」


 一歩、足を踏み出して、帰路へ着く。

 向かう先。

 大切な少女が帰りを待っているから。


なんて――。きっと。キミの思い違いだろう?」


 精一杯、ユキトができる、強がりの意思。

 そんな。

 小さな独りの言葉であった。

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