Ⅴ:神々とは如何に - ユキトの考証 -

〝追求〟 / サチュル


 黒きコートを纏った、黒の青年、ユキト=フローレスには一つの〝日課〟があった。

 もちろん。

 その日課を優先する訳にはいかない、アリスの神託を最優先として、日課はその二の次、いや、アリスの余暇あそびに付き合う都合もあるからして、正確には三の次くらいだろうか。

 ともかく。

 ユキトには知りたいコトがあるのだ。

 たった一つ、真実と呼べるだけの確証を、ずっと彼は長らく追い求め続けている。

 〝世界に広がる数多のアリスの伝承〟。

 その真偽について、で、ある。


     ◇


 西方の南部に位置する都市、場所は、依然として変わらず〝サチュル〟のままだった。

 意外なコトに、ユキトたちは事件から三日ほど経った今もなお、この街に寝床を構えている。

 〝カルテット〟の虐殺はニュースになれど、街から離れた洞穴であったため、直近の危険は特にない。

 街にいても危険はない。

 ただ、アリスが言うには、次の神託は下っているらしい。

 だが、妙に、その表情は浮かばないものであった。


『アリス。どうかしたのかい?』

『人間である貴方が口を挟んだところで。いったい。なにができるのかしら?』

『……――ふぅむ』


 つんっ、と、そう突っぱねられてはとりつく島もない。

 仕方がない。

 アリスはそういう子なのだから。


 ともあれ。

 次の街が何処であれ、また旅を始めるのであれば、色々と準備は必要だろう。

 下準備を、という名目で、今日はアリスから時間を貰っている。

 ただ――。

 本当は準備に一日もかからない、が、そこはあえて小さな嘘を吐いておいた。

 情報収集。

 西方の地以外で起きている、たちが起こしている――であろう――数々の事件を、情報として追いかけるために。

 情報とは、人にとっての生命線であり、当然、その収集を怠った者は時代の中に取り残されていく。

 取り分けて、ユキトやアリスと言った裏側の住人にとって、情報とは本来喉から手が出るほど欲したくなるものなのだ。

 と、言うのも、本音を言えば建前であるが。

 単に、ユキトがアリスのコトを知りたい、他に意図は特にない。

 大切な人のコトを、よく、知りたい。

 ソレだけだ。


「とは言え。随分とこのメモも分厚くなった。我ながら感心するよ」


 人が行き交う繁華街、スクラップブックをユキトは片手にしながら、誰に向けた訳でもないその言葉を小さく呟いた。

 恐らくは、ユキト自身に向けて、そんな言葉だろう。

 長年、彼が古今東西から集め続けてきた、〝アリス〟にまつわる情報のすべて。

 ソレが彼の手にする手帳に記されている。

 ある意味では宝物のようなものだろう。

 〝鍵〟。

 アリスの真相に繋がる秘密が、そこには在るのではないか、と、ユキトはそう思っている。


「皆目。見当すら付かないってのが。現実なんだけどね……」


 小さく息を吐いて、ぽつり、独り言つ。


 〝アリス〟とは、〝神の遣い〟であり、〝神々〟 から〝神託〟を受け、その〝裁き〟を下す存在である。


 この言葉はアリスがよく言うように、彼女の言葉の端々から掴み取った、彼女という存在の真実だろう。

 ただ――。

 結論、アリスとは単数に非ず、複数の存在なのだ。

 なぜ。

 世界各国で、粛正の嵐は、巻き起こっている。

 論拠。

 そう、ユキトやアリスが行ったコトさえない、北方、南方、東方の地でさえも。

 アリスの痕跡は残されている。

 調査した事実を元に、アリスの言動を端々から照らし合わせれば、ほぼ、それは間違いのない事実であると言えようか。

 つまり――。


 ユキトの側にいるアリスとは違う、が、この世界の各地にはたくさん存在している。


 ふぅ、と、息を吐きながら空を見上げる。

 反芻する。

 今までに調べてきた、アリスの伝承のすべて、その考証と考察を。

 世界中に蔓延っている。

 粛清の嵐を。

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