苦悩


     ◇


「くだらないね。――本当に」


 たった一人、静かに、佇んでいる。

 場所は、フローレス公爵邸の、ダンスホールである。

 その場に飾られていた、宝飾豊かな刀剣を眺めつつ、青少年は、小さな声で呟いた。


 握るコトが叶わない代物だ。


 ならば。

 この才能は、いったいなんのために、存在するのだろうか。

 ユキトは、いつも、満たされない自分の心を考える。


 殺すコトは、そう、良くないコト。


 言われなくとも、そんなコトは、よく分かっているのだ。

 だが、剣の本質とは、人を殺すコトにあるのだと、ユキトはそう考えていた。

 そう。


 殺す才能を持って生まれ、且つ、殺すコトを禁じられる立場に自分は生まれた。


 己の存在意義とは、いったい、何処にあるのだろうか?

 フローレス家の、嫡子、公爵家の継ぎ手。

 だが、きっと、この場所から見える物にユキトを満足させるモノはない。

 分かっている。

 ただ。

 境遇がソレを許さない、逃れられない運命が、ユキトの将来を固定して離さない。

 そうだ。

 苦痛以外の何物でもなかった。


 ……――消えてしまえば、良い、ぜんぶ。


 そうすれば、人生をやり直すコトも、可能だろう。

 考える。

 嗤う。

 十五にもなって、ユキトはありもしない現実に、夢想していたのだ。

 己の思考に、小さく冷笑しながら、ユキトは宝刀の前から姿を消す。

 役目に、努める、務めるのだ。


 さあ。今日も変わらない。いつも通りの操り人形となろう。


 そう思っていたのだ。

 あの日。

 一人の少女アリスが世界を壊す、あの瞬間が、訪れるまでは。

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