デクレ / リッパー・ジ・ノエル


     ◇


 西方のさらに西方側に位置する某国の中枢都市。

 〝デクレ〟。

 人口約百五十万人。規模としては非常に大きく活気のある都市として有名である。様々な文明が独自の発展を遂げたコトでも名を馳せている。

 ただ。

 現在、この街には一つの、世間を震撼させる未解決の事件があるという。


 〝リッパー・ジ・ノエル〟。


 曰く、ナイフを使って、人を切り裂いて殺し回る、そんな殺人鬼だそうだ。

 ごくありふれた、よく聞く、なんてコトのない話。

 ともかく。


「ノエル=ベヒッド。巷を騒がせる。まあ。いわゆる生粋の殺人鬼だね」

「あぁ。そうそう。確かにそんな名前だったわね」

「まったく……。どうしてボクが調べなきゃならないんだろう。本当に」

「だって。ユキトはそういう役目でしょう?」

「少しは自分で調べろ。と。ボクはそう言っているんだ」

「無理よ?」

「どうして?」

「考えるの。嫌いだからね。私は」

「馬鹿だね」

「ねぇ。私。そろそろ泣いても良いかしら……?」


 考えると、頭が痛くなるんだもの、と、アリスはぶつくさ文句を言っている。

 つまり――。

 失礼ながら、ソレが、馬鹿だというコトなのだ。


「ともかくとして。まず。ヤツがどういう人間で何処に現れるのか。ソレを探らなきゃいけない訳だけど」

「神様に聞いてみましょうか?」

「いや。ソレはキミの負担も大きい。そうだろう?」

「まぁ。そうなのだけれど」

「時間が迫っている訳でもないし。別に。焦る必要もあるまいさ」


 観光でもしながら、適当に、情報を集めれば良い。

 割と。

 楽観的な対応のユキトであった。


「随分とご機嫌ね。なにか。楽しいコトでもあったのかしら?」

「ん……。まあ。ここは文明が発展している有数の都市だからね。ボク自身。色々と見て歩きたいのさ」

「なるほどね。でも。最優先はお仕事よ?」

「分かっているさ。ちゃんと。つつがなく完璧にやってみせるから」

「なら。ソレと同時に。少し遊んで行きましょうか?」

「ん。そうしよう」


 賑わう街の中、黒いドレスの少女と黒いコートの青年が、手を取り合って歩く。

 その姿は、確かに、物珍しいのかも知れない。

 人々は、ソレを見て、振り返るのだ。


 ふわりと揺れる金色の髪と、少女の満点な笑み、ソレを支える落ち着き払った黒髪の青年の姿。


 美麗なる一枚の絵のように。

 彼らが、殺人鬼を殺す殺人鬼であるというコトなど、誰もが想像に及ばないだろう。

 それほどに――。

 彼らは普通の青年少女なのであった。

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