正しき子
◇
アリスが言う〝神託〟とはいったいなんだろうか。
以前。
アリスが説明してくれた言葉がある。
『つまり――。神様が私に対して〝悪い人間〟を言い伝えるコトで。殺しを赦してくれる。そんな儀式みたいなものなのよ』
出会った頃の、まだユキトも青少年であった、そんな頃に、アリスは懇切丁寧な説明をしてくれたのだ。
だが――。
『全然。分からないんだけど。アリス』
『どうしてよっ?』
『キミは説明が下手くそ過ぎる。駄目だね。全然』
『こ……っ。コレだからガキンチョは――!!』
『見た目的には。キミの方が子どもみたいだけど。ね』
『なにぉ~!?』
ユキト、十五歳、一人の少女と喧嘩をする。
二人で旅を始めた頃、ちょうど、そんな言い合いをしていたのだ。
今となっては、ユキトにとって、心地良い思い出となっているのだけれど。
閑話休題。
ともかく。
補足的な説明として、ユキトが加えた解釈を付け加えると、こうである。
つまり――
〝神々〟が〝アリス〟という
コレが〝アリス〟という少女の存在意義なのであった。
世界にそぐわない〝悪〟とは、実に不明瞭且つ曖昧であり、先日に処断したカンテ伯爵のように〝将来性〟を危ぶまれての殺害もあり得る。
ただ、カンテ伯爵の場合は、現在進行形だった悪もあったが。
逆に、将来性ではなく現在進行形の悪を理由に、処断の対象となるコトがある。
判断の裁量は、本当に、分からない。
神のみぞ知る。
ユキトが言う、口の悪い言い方をするのであれば、〝適当〟というのが正しいか。
裁くべき悪は、もっと、他にいると思うのだが。
……――コレが神々の所業なのだから、ユキトとしては、鼻で笑わざるを得ないのである。
最初の頃は、ユキト自身も、アリスの狂言であるコトを疑っていた。
つまり。アリス自身が単純に狂っているのであり、実は神々など最初から存在しないのでは、と。
コレに関しては、アリスが持ってくる情報と、その化物じみた身体能力が、結果として、ユキトを神々の肯定へと導いた。
人が知り得ない情報を神託で仕入れ、且つ、〝神々の恩恵〟とやらで人を殺す超常的な破壊力を備えている。
目の前で起こる、非現実的な、それでもなお現実的な現象が、否応なくユキトに神々の存在の肯定を促した。
アリスが、小さな掌で、
化物であるコトを否定はできない。
少なくとも。
アリスは人間ではない、そして、神々という名の操り主が存在している。
事実であるのだから、受け入れる、他に道はない。
アリスは自らを「
ソレ自体、ユキトはなにも間違っていないのだ、と、そう考えている部分がある。
事実、死ぬべき人間など、この世界には山ほどにいるのだろうから。
ただし。
平和とは、綺麗事だけで得られるほど、単純な代物ではない。
屍の上に、自らの命が成り立つように、世界もまた同様なのである。
残酷なまでの、ユキトが抱く、合理的な思考理念。
狂気。
アリス以上の、あるいは、神々以上の――。
××。
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