カンテ / END


     ◇


 もしかしたら、今回の騒動で、善い人間が何人も巻き込まれて死んだかも知れない。

 考えると。

 間違いなくユキトとアリスの行動は〝悪行〟であるコトに他ならない。

 知っている。

 アリスはともかく、ユキトは、理解をしているのだ。



「神様が褒めてくれたわよ。跡形もなく吹き飛ばしたおかげで。痕跡は一つも残らなかったって」

「派手に暴れるなら。中途半端よりも。完璧にやった方が良いってコトだね」

「私。大活躍でしょう?」

「上手くやれば。ね」

「なによ。含みのある言い方ね?」

「前回みたいに。我を忘れて暴れてたら。なんの意味もないよってコト」

「はいはい。以後気を付けますよ。もう良いでしょう?」


 今回の件の、一個前、その時は〝楽しさのあまりに建物ごと対象を吹き飛ばした〟というアリスの行動によって大変な目に遭っていた。

 今回は。

 計画的に、且つ、全員を殺してから建物を焼き尽くしたという手法を採った。

 目撃者も、撃ち漏らしも、殺し損ねた目的もいない。

 完全無欠の成功である。


「何度言っても。キミは同じコトを繰り返すからね。ボクの気苦労は絶えないよ」

「ぶぅ~……」


 漆黒のドレスに身を包む少女、そして、漆黒のコートに身を包む青年は、二人、一緒に〝オルエン〟の街を出て行く。


『都市、オルエンの有力者、話題の殺人鬼に狙われる!』


 このニュースは、センセーショナルなものとして、全世界に広まったらしい。

 ただ。

 同時にカンテ伯爵の悪行も、一部が、明るみに出ていた。

 中和、とまでは行かないが、一考の余地はあったようで。

 世間における、〝殺戮少女アンノウン〟に対する評価も、大きく二分化するものとなっていた。

 〝悪魔像〟と〝英雄像〟の混在。

 だからと言って、ユキトとアリスの罪が、なくなるハズもない。

 が。

 実際、〝殺戮少女〟の少女とは、都市伝説であり、本当に少女が殺人事件を起こしているとは思われていない。

 実態は不明、故に、アンノウンだ。

 当然。

 殺人犯のリストから、少女という候補は、一度たりとも浮上はしない。

 つまり、どうなるか、と。


 結局、なんの警戒も受けないまま、犯人であるにもかかわらず、堂々と、街の外へ出るコトが叶う。


 誰にも、彼らを、止められない。

 そういうコトだ。


「次の仕事も。上手く行くと良いね。アリス」

「あら。私が失敗するとでも?」

「思ってないよ。キミは。本当に立派な仕事をしている」

「ふふん」

「単純な娘だよね。キミって。本当に」

「なにか言ったかしら?」

「別に?」

「そう?」


 ふんふーん、と、鼻歌を交えつつ、アリスは、街の出口から伸びていく道へ向かって歩みを進めていく。

 その隣を。

 ユキトも変わらずに歩いて行く。

 変わらない。

 平和。

 平穏。

 平穏な殺しの日々なのだ。


「さて。次の街は――。神様が言うには〝あっち〟ね」


 ぬぴっ、と、アリスは森がある方角の先を指差した。

 前方完全不明瞭。

 彼女は何処を見据えていて、何処へ、どう向かうつもりなのだろう。


「いやいや。あっちって。いくらなんでも適当過ぎないか?」

「だって。私。地名なんて知らないんだもの」

「覚えれば良い」

「面倒くさいわ。私。頭を使うのは嫌いなのよ」

「まあ。知ってるけど。ね」


 先行きは相変わらずに不安なまま、しかし、ユキトの心は満たされている。

 彼女アリスの側にいられる。

 幸福なコトだ。



 いつの日か。

 ユキトは、そう、死ぬのかも知れない。

 当然だ。

 こんな生活を続けていれば、必ず、死は逃れられないだろう。

 だが。

 死ぬまでは、せめて、彼女を支え続けていたい。

 と。

 ユキトは、今、そう思っている。


 彼女に魅せられた、あの日から、ユキトの気持ちは変わっていない。


 この剣は、いったい、なんのためにあるのか。

 答えを見つけた。

 すべてを失い、そして、すべてを得てしまった。


 あの日から。

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