第2話 26歳・夏1-2

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「いぬタヌキさん、スーパーチャットいつもありがと~♡ またキラリの配信あそびにきてね~☆」 


 『キラりん安定してAIM終わってるの逆に安心できる』

 「誰のAIMが終わってるねん!!」


 『この間のホラゲー配信めちゃくちゃ面白かったです!!最近辛いことがあったけどキラりんに元気をもらいました!!』

 「え~、もう本当に怖かったんだから! ホラゲーはもう二度とやりません!!」


 「ヤンタンさん、500円サンキュー♡」



 やりたくもないFPSゲームをだらだらとプレイしながら、合間を見つけてはサブモニターにひとりでに滝のように流れていく視聴者のコメントやスパチャの相手をしていた。

 ただ虚空に向かって話すだけの無為な時間だが、この瞬間だけは誰かと繋がれている気がする。普段コンビニの店員と宅配のスタッフとしかまともに会話しないからなおさらだ。

 

 デビューしたての頃は大変だった。ゲームなんて小さい時にポケモンをやったくらいの経験しかないのだから、PCゲームなんて未知の領域以外の何物でもなかった。

 最初はとりあえず流行りに乗ろうと、当時勢いのあったバトロワゲーをやっては見た物の、敵を倒すどころかまともに移動すらできなかったのだから。


 今となっては懐かしいがその下手なプレイがどうやら視聴者に受けたらしく、私が配信するたびに同接数とチャンネル登録者数は日を増すごとに増えていった。

 デビューしたての2年前と比べると人並みにはPCでゲームをプレイできるようになっているのだから、時の流れというものは恐ろしい。

 配信画面上には制服を着た二次元の女の子が表示されており、ニコニコと愛想の良い笑顔を浮かべている。


 [綺羅星キラリ] 

 群雄割拠のVtuber戦国時代の現状からみると、少し古臭くとも思える二次元の女の子

 もう一人の私、ネット上の人格とも呼べる彼女。


 私は彼女のキャラクターイメージを崩さないように、疲れた表情を出さないように笑顔は崩さず、適度に声の抑揚をつけながら時折ゲームの感想を述べながら、さも楽しくゲームをプレイしている雰囲気を出していた。

 このあたりのスキルは自然と嫌でも身についてしまう、本当に。


 事務所のオーディションを受けたときは、まさかこんなことになるとは思っても見なかったし、なんなら当時のvtuberがそうであったように3Dモデルが用意されるのが当たり前だと思っていた。

 当然、「Live2D」という物の存在はおろか、二次元の絵をレイヤーごとに分けアニメのように動かせるだけでなく、それをリアルタイムに反映する技術があるなんて夢にも思っていなかったため非常に驚いた記憶がある。


 これに関しては私の勉強不足とも言えなくもないが幸か不幸か、そのVTuberブームに乗っかった企業があちこちで事務所を作りVTuberを量産するようになると、3Dモデルでの動画投稿をメインにするVTuberの人気は緩やかに陰りを見せていった。


 しかも代わりに台頭したのはLive2Dを使いゲームや雑談配信をするVTuber、いわゆる配信勢だったのだから笑えない。

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