絵畜生なんてクソくらえ
サムラ・イエジ
第1話 26歳・夏1-1
時代の波は確実に着実に、誰がどう見ても私に来ていた。
現在のチャンネル登録者数は58万人。
このままのペースでいけば来年の今頃には、登録者数は100万人を優に超えているだろう。
キンキンに冷えた室内でこれまたキンキンに冷えた缶ビールを片手に煽っていた。
寝起きのプレモルほど美味いものはない。最高に生きているって感じがする。
もう片方の手に握られているスマホの画面には、私の年齢では余りにも不釣り合いであろう預金残高が表示されている。それを見るたびに自然と笑みがこぼれてしまう。
職業柄外に出ることはほとんどないうえに、ブランド物にもあまり興味がないため、配信をすればするほどお金が貯まる。
契約上、収益は所属事務所と折半ということになっているため、そのすべてが私個人に入るわけではないが、それでも生きていくには十分すぎるぐらいの給料が毎月振り込まれる。
預金残高が増えれば増えるほど、私の心は自分ではどうしようもないほどに満たされていく。
幸せとはきっとこういうことを言うのだろう。今後の人生への安心感が半端ない。
この感情をまだ声優に夢を見ていた2年前の自分に懇切丁寧に教えてあげたいくらい。
なんならお小遣いを上げてもいいし、叙々苑のお肉をたらふく食べさせてもいい。
かつてあんなに必死になって声優という職に固執していた自分が嘘みたいだ。
諦めて正解だった、今なら本当に強くそう思える。
こんな炎天下の中をかつて同期だった声優たちが、1円にもならないオーディションのために走り回っていたと思うと、クソほど笑えてくる上にビールが進んでしょうがない。
他人の不幸という最上級の蜜を啜るのもほどほどに、私もあまりだらけてはいられない。
時刻はもうすぐ19時を回ろうとしている。
「配信」を生業にするものにとってのゴールデンタイムがすぐそこまで迫っていた。
とはいっても準備することは特になく、去年お金があまりない時期に奮発して買った3桁越えの防音室に入り、先月買った80万ちょっとのPCの電源を付ければいつでも配信を始められる。
もちろん上下別のパジャマを着て、ぼさぼさの髪の毛のまま、化粧をせずとも何の問題もない。顔出し配信者と違ってVTuberは寝起きの格好のままでも良いのだ。
いや待てよ? 今度「寝起きの格好」を新衣装として追加するのもアリじゃないか?
寝起きの女の子とか可愛い以外の何物でもないだろ? ははーん、さては私って天才だな?
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