死んでしまった物語たちへ

可燃性

遺書

 遠い海のどこかにちりばめた僕の物語がたどり着いたころ、僕はもうこの世にはいないだろう。

 悲しいと思うよりも先に、申し訳なさが募る。


 母も父もきっとなぜ僕がこれを選んだのか理解できないと思う。

 でも僕にとって『物語』とは、二番目の心臓だったのだ。

 それを完膚なきまでに否定されて、僕はもうどうしたらよいかわからなくなった。


 正しく生きるのは難しい。

 欲望を抱かぬ生き方はもっと難しい。


 欲を掻けば己の無力を痛感し、欲を抱かねば己の存在なきを知るばかり。

 いずれにせよ僕にはもう此処で生きることはできぬのだ。


 僕は彼らに謝りたい。地面に額をこすりつけ、「すまなかった」と言いたい。

 だって彼らの物語は永久に終わらなくなってしまったから。

 おかしな話ではないか、僕の命が尽きると彼らの命は永遠になるだなんて。

 永遠とは幸福なのだろうか、少なくとも僕はそう思わない。

 進まぬ時のままでいては誰も新たな己を見つけることはできない。


 でも僕にはその新たな自分とやらが見つからないのだ。

 此処は一体、いつから地獄になってしまったのだろう。


 ずっと楽園で笑っていたではないか。

 ずっとここは居心地の良い場所だと笑っていたじゃないか。


 いつから鬼の嗤う地獄になったのだ。

 僕には見当がつかない。


 ああ許してくれ。

 君たちをあの地に運んでやれぬことを。


 僕にはもう紡ぐことができない。

 語る口はひび割れ切れて、血すらも出てこないのだ。


 友よ、どうか僕のようにならないでほしい。

 非凡であろうと凡人であろうと、命尽きてしまえば最後。

 僕らの描いたあの新天地は二度と拓かないのだから。


 死んでしまった物語たちへ。

 さようなら、この世で一等君たちを愛していたよ。

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