第4話 白雪姫の王子様
ボクは――
正直なところ、
しかし彼の敗因は、彼のとっておきが『死の呪い』だったこと。
それはボクには、ボクにだけは効かないのだ。
彼の異能は速やかにボクを抹殺し、そしてボクは速やかに生き返る。
「残念だったね――『
ボクの懐から蛇のように飛び出した『胸紐』が、彼の胴をキュッと締め上げる。彼の身体は電池が切れたようにぐったりとする。しかし自分の足で立ったまま、倒れることはない。倒れることは、許されていない。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
仮死状態になった伊原木ツムギの身体が、ボクの指示に従って動く。
ボクはその
そうしてボクは悠々と時計塔へ向かって歩く。伊原木ツムギだったものは別の方向へ走っていった。
時計塔の前、そこには工学部のマッチョが半裸で立っていた。
名前はたしか、三ツ矢テツヤ。
「待ち構えていた、というよりは、何とか間に合ったという感じですね」
「その通りだが、わざわざ言わんでいい」
「でも、ボクの邪魔はできませんよ」
◇◇◇
白雪姫は計三回、いや計四回殺されかけている。
彼女の継母にあたるお妃さまは、魔法の鏡が「いちばん美しい」と言う義理の娘――白雪姫を暗殺する計画を立てる。
一度は森の狩人に姫の暗殺を依頼する。狩人はまさに彼女を殺そうとするが、美しい少女に命乞いをされて見逃してしまう。彼は少女の代わりに猪を殺し、お妃さまのもとには『猪の内臓』を持ち帰った。
一度は喜ぶ継母であったが、魔法の鏡は相変わらず「いちばん美しいのは白雪姫」と言う。
『胸紐』による絞殺。しかしこれは、帰ってきたこびとによって妨害される。次は毒殺。毒を塗った『櫛』が刺さると少女は倒れる。しかしこれまたこびとが帰ってきて、『櫛』を抜いてしまう。ところが食いしん坊な娘は『毒林檎』をぱくり。今度こそ死んでしまった。
◇◇◇
木々の間から現れたのは、伊原木ツムギと荒野キキョウ。
伊原木ツムギの胴には『胸紐』がきつく結びつけられており、荒野キキョウの金髪には『櫛』が刺さっている。
ボクの傀儡となった二人は、仲良く落窪リオンの身体を担いでいる。
ぐったりしているリオンの口に『毒林檎』の破片を押し込む。
「ん、ぐっ……」
これでボクの『
第一の不死『猪の内臓』はすでにボクの中に取り込まれており、いざというときは身代わりになってくれる。
第二の不死『胸紐』はその赤髪、伊原木ツムギを仮死状態にして操っている。
第三の不死『櫛』はボクの下僕であるツムギが荒野キキョウに刺してくれた。
第四の不死『毒林檎』が今、灰髪の落窪リオンの身体を操る。
「毒林檎ってことは、あんたは『白雪姫』か」
「余裕ぶってないで、あなたも『魔女の異能』を出したらどうです?」
「そう言われてもね」
「来ないならこっちから行きますよ」
右からツムギのいばらが、左からリオンの鳩が、巨体を襲う。
ついでに七人のこびともおしげなく放出。完全に四肢を拘束する。
「ボクの毒がまわった時点で、彼らの能力もボクのものとなる」
「自分を押さえつけるなら、手足ではなく筋肉を押さえなくっちゃあいけないよ」
「は?」
何言ってんのこのマッチョ、と思ったその瞬間。
「第二のタガ、封印解除!」
腕と脚を拘束すれば、人間は動けなくなるものと思っていた。しかし、人間鍛えれば胸の筋肉も自在に動かすことができるのだった。
「馬鹿な……ッ」
躍動する大胸筋。
とっさにボクは身を伏せるが、人形たちへの指示出しが間に合わない。
「こぉぉぉぉぉぉ」
大きく酸素を吸引したのち、ポージング。大胸筋上部を押さえていた鉄のタガが勢いよくキャストオフ。三人の王子人形を後方へ吹き飛ばす。
「いったいあなたはどこの王子様なんです? そんなめちゃくちゃな能力、聞いたことがないッ!」
「そう言われてもね……。自分は王子様ではなくって、ただの友達思いな一般人なんだ」
なぜだか彼は、この世の悲しみが全部押し寄せたみたいな顔で、泣いていた。
『王子様ではない……だと?』
時計台の前、そこには一人の魔女が立っていた。
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