オリオンとミッカが出会う国
ピアノのテストの後、オリオンに会うことはできなかった。僕が教室で十九時過ぎまで居眠りをしたせいだ。二十時までには帰れそうもなくて、もうこのまま学校に泊まるしかない。
オリオンが夜の国へ行くことは、夜にスマートフォンを見るまで知らなかった。
ああ、それできみはここへ来たのか。
僕は取り返しのつかないことをした。もう会えない。オリオン、僕の天使。情熱の塊みたいな火球。たまに間抜けだけど、そんなところもおかしくって大好きだった。
仮眠室で呆然としていると、不意にノックの音が響いた。ドアじゃなく、窓のほうから聞こえる。
「ミッカ! こっち!」
「オリオン!」
慌てて僕はベッドから飛び出した。窓の外にはエメラルドの服を纏ったオリオンがいる。もう二十時になるのに。
「窓は開けないで。もう夜だから」
「ごめんオリオン。きみは夜の国へ行くって……」
オリオンは僕を制するように窓ガラスを両手で叩く。
「聞いて、ミッカ! 僕、決めたんだよ。夜の国の住人になっても、やっぱりきみとバンドを組みたい。またきみと一緒に歌うことを絶対諦めたくないんだ。だから僕は爆発することにした」
「爆発?」
「だから必ずまた会えるよ。ミッカ、もう少しだけ僕のこと待っていてくれる?」
「もちろん」
オリオンの言っていることは全然わからなかった。それでも僕は右手を、オリオンは左手をガラス越しに重ねた。
オリオンは満足したように微笑み、それきり消えて見えなくなった。
夜の国へ行ったんだ。寂しくて悲しくて、涙が止まらなかった。
――けれど、それから世の中が変になったんだ。僕はオリオンと別れて朝まで眠った。目が覚めて窓の外を見たら、空はなぜか奇妙なオレンジ色。こんな色の空は見たことがない。
けれどその空色は、午前八時を過ぎても、二十時を過ぎても変わらなかった。
以来、昼の国にはずっと昼が来ていない。少し暗くなったのは不便だけど、代わりに外出できない閉ざされた時間もなくなった。これは少し快適。
さらに、世界中の時計が全部壊れたせいで人々は大混乱に陥った。けれど政府で時間制度が見直され、ついに
そんななか、僕は街で昔馴染みのジャクシーと出会った。夜の国にも夜が来なくなったと知ったのはそのときだ。
「それと、誕生日パーティー以来ずっとオリオンを見かけないんだ」
どういうことだろう? さっぱりわからないけれど……。
オリオンが何かしたのかな。巨大隕石みたいな子だから、世界をめちゃくちゃにするのは得意そうだ。
いまは夜の国でも昼の国と同じオレンジ色の空が続いているらしい。つまり僕らはもう、同じ世界を見ているようなものだ。
僕はきみのこと、ちゃんと待っているからね。でも、そろそろ僕の前に現れるんだろう? オリオン。
オレンジ色の空の下、大きなぬいぐるみを抱えたきみが、笑顔で僕のほうへ駆けて来るのが見えるような気がしたんだ。
【1万】夜の国と昼の国のオリオン 平蕾知初雪 @tsulalakilikili
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ガチ日記2023/平蕾知初雪
★18 エッセイ・ノンフィクション 完結済 120話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます