エピローグ
その足は、新たな日常へ
詩織はアパートの明かりを消した。
部屋にはミカンが一人。布団にくるまってすやすや平和な寝息を立てている。
帰ってきた彼女はずっと眠ったままだったが、名取に疲れているだけと聞かされ、一安心。起こすのもかわいそうなので食事は名取と二人で取り、残りの分はラップをして冷蔵庫に入れた。量が量なので中がパンパンになってしまった。
意外だったのは、あの三人組がユニオンにミカンを引き渡してきたということ。なぜか黒コゲだった三人は、ちょっと気を離した隙に行方を暗ましたのだとか。
連合のレーダーからどうやって逃れたのかは最後まで謎で、名取も驚いていた。
「…………………………」
詩織は息を潜め、静かに玄関を出た。
(……ミカン、すまない)
少しだけ。
少しだけ一人になりたかった。
目まぐるしく過ぎていったこの三日間。
そして、―――帰ってこなかった、あの男のこと。
さすがに、少し疲れた。
生死不明。
名取から告げられたのは、そんな無情の報告だった。
ミカンたちをさらった宇宙海賊はワープ中の事故で船ごと消滅。
あの男のその後ことは、まったくわからない。
だから、生死不明という結論が出された。
そのことを口にする名取は職務に徹しようと頑張っていたが、心苦しさが節々に滲み出ており、そんな彼を前に詩織はかえって冷静になることができた。
いや、そう務めた。
大変なのはむしろこれからなのだから。
このチキュー星の歴史が、ミカンを中心に動き出すのだ。
そして自分は、これからずっと彼女をそばで支え、立派に育てなくてはならない。
あの男の代わりに自分がミカンを笑顔にするんだ。
悲しみなんて捨てろ。沈んだ感情など押し殺せ。
あの男が望んだ日常に、そんなものは不要だ。
だからいつも通り。いつも、通り………。
「……なあ、一坂」
階段を下り、アパートの敷地から出た詩織は上を見上げてひとり呟いた。
視界に広がる満天の夜空。
星々は煌めけど、その輝きが近づき、重なることは決してない。
詩織はまるで自分もその小さな光の一つになったかのように思えた。
「一人は、つらいな……」
宇宙の闇の中で、そんな言葉がポツリと零れた。
その時―――
詩織の頭上を流星が流れた。
「!」
明かりを消したはずの部屋の窓から、煌々と光が溢れていた。
そして、
「あぎゃあああああああああああああああああ―――――――――――――っ!!」
うるせー声が辺りに響き渡った。
漆黒の尾が、ずどーんと屋根を突き破る。
「せっかく帰ってきたってのになんでいきなり尻尾が襲ってくるのおおおお!? この子ったら寝相悪すぎんだろってあぶねっ! 今まで大人しく寝てたやん! なんで俺が来た途端にこれなの!? 冗談抜きでヤバいって! やばいってええええっ!」
大絶叫。
詩織にはもう中でなにが起こっているのかが手に取るように分かった。
そして、あそこに誰がいるのかも。
「ああ、やっぱりですか」
「名取?」
帰ったはずの純白の騎士がいた。
「実はあの後、宇宙船のセンサーがチキュー星に落下していく小さな影を捉えまして」
そう言った名取の手には手錠が握られていた。
「それは?」
詩織の問いかけに、名取はいつものさわやかな笑顔で答えた。
「立花さん、私はスペース警察ですよ? ならば、決まっているではありませんか」
すたすた歩いてアパートの部屋に入っていった。
「げげんちょ!? なんで名取さんが!?」
「あの三人組のひとりが、スマホを落としたと届け出を出していったのです。そうしたらこのアパートから位置情報が発信されているではありませんか」
「あんにゃろ小悪党のくせに何やってんだちくしょったれ!」
「いいからさっさと出しなさい。今なら軽い窃盗で済ませてあげますから」
「やなこったパンナコッタ! これがあればチキュー星でボロ儲け出来るんだ!」
「何を馬鹿なことを! そんなことはせずに地道に働きなさい!」
「あーあーあーあーでましたでました。こちとらこれから養育費だなんだと入り用なのに。これだから独り身男は子育ての大変さがわかってねーな。嫌だ嫌だ」
「それとこれとは話が違うでしょう!? どこから目線なんですかあなたは!?」
「ミカン助けてくれ~、警察がパパを犯罪者扱いす―――」
ずばーん。
「死んじゃう! ミカン起きろって起きないよねエええ―――ッ!? あ、ヤバす。尻尾が完全ロックオンした。死にたくないよー! 詩織! 詩織様は何処おおおッ!!」
「……………………………はあ」
詩織は眉間を指で押さえながらため息を漏らし、歩き出した。
いつものようにアパートの一室を目指して。
これから始まる。騒々しい、新たな日常へ。
(さて。どこから手を付けたものか……)
なにせやることは山のようにある。しかし、まずは手頃な所から。
冷めた夕食を温め直すか。テキトーにネチネチ小言を言うのも魅力的だな。なにせネタには困らない。商店街に随分とツケが溜まっているようだしな。だが……
(とりあえず、熱い茶でも淹れてやるか)
詩織のいつもの冷静な表情に、小さな笑みが浮かんでいた。
これは、辺境の惑星〝チキュー星〟で繰り広げられる、二人の親子の物語。
《――― 宇宙が繋いだ in ベイダー 了 ―――》
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※最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
in ベイダーはここで終わりです。
だけど、一坂とミカン。
そして詩織の日常は始まったばかり。
彼らはこれからもチキュー星で賑やかな日常を過ごしていきます。
そんな三人のこれからの日常を覗いてみたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ感想とかそんな感じの、執筆エネルギーを注入していただければな~と図々しくも思っておりやす。えへへ。
あなたの笑いが私のガソリンです!
それでは最後に改めて、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!!
おきな
宇宙が繋いだ in ベイダー ~俺の娘はエイリアン!?~ おきな @okina-kabushiki
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