第3話 失意
「盗賊団の首領などと言うから、どんなやさぐれ者の集まりかと思いきや・・・」
メアリーに道案内されて訪れた街。煌びやかな都市部から外れたスラム街。そこに“ガイコツ盗賊団”のアジトはあった。
「皆、ただの子どもじゃないか」
眼にクマを付けた11人ほどの少年少女らが、訝し気な表情を浮かべてジョッシュを見上げる。
「16歳の露出狂に言われたくないです」
「首領。誰だよコイツ」
歳は15歳くらいだろうか。黒髪をボサボサに生やした少年が、ジョッシュに絡む。
「黄金の国の王子らしいです。人質です。この人のお父さんから、お金をガッポリせしめる予定です」
「ふーん。ヘタレの首領様が、やっとメシになる仕事を持ってきたわけだ。なるほど。イイもん食ってる身体つきだ。なんかイイ匂いするし」
「香水だ。王子のたしなみである」
「この子は副リーダーのバルバです。バルバ、失礼ですよ。一応、王子様なんですから」
「ふん」
「クンクン。本当だ!王子様イイ匂いする!」
「王子様遊ぼうよ!」
「遊ぼう!」
「メアリー殿。この子たちは」
「先の魔王大戦で孤児になった子どもたちです。世界が平和になっても、傷痕はまだ残ってるんですよ」
「この国の王は何をしているのだ」
「国?国が何をしてくれると言うんです?彼らは自分達の地位とお金を守りたいだけですよ。王子様の国もそうなんじゃないですか?」
「我が国は滅びそうである・・・が、ここよりはマシか。すまない。私は他国に出たことがないのだ。いろいろ知らないことがあるようだ」
「そのようですね。でも、いくら世間知らずであろうと、王子様は王子様。お父様にお金をよこしてくれるよう、一筆書いてくれませんか」
「・・・メアリー殿。一つ提案があるのだが」
――――――――――
「最後の邪竜――リヴァイアサンを狩る?」
「城の教育係に教えてもらったぜ!魔王が配下にしていた四大邪竜のうちの一体。『リヴァイアサン』がまだ討伐されていないぜ!これをやっつけることができたら、お金をがっぽり稼げるぜ!」
「やっつけたら・・・って。それができないから生き残ってるんですよ」
「そこでこの、“最強装備”の出番だぜ!!」
ジョッシュがほぼ全裸で仁王立ちするのを、スラムの子どもたちがポカンと見つめる。
「四大邪竜だろうが何だろうが関係ないぜ!これさえ着れば、あっという間に倒せるぜ!我が父上が錬成した最強装備が!リヴァイアサンを倒す!最強装備の素晴らしさが世界中に伝わって、父上の装備品は引っ張りだこ!国の再興は間違いなしだぜ!」
「さいきょーそーびって。その葉っぱのこと?」
「ハッハー!面白いことを言う子どもだぜ!」
「で、ワタシ達に何をしろと?」
「人をたくさん集めてほしいぜ!」
――――――――――
「黄金の国の王子様が!」
「世界最高の装備品をもって!」
「最後の邪竜を討伐します!!」
「皆さん!どうか!」
「お集まりくださいーい!!」
ドンドン、パフパフ~!!
缶詰の空き缶で作った太鼓やガラス瓶の笛の音、手作りのチラシ。半裸の青年と取り囲む子どもたちの小さなパレードに、人々の視線が集まる。
「リヴァイアサン討伐ねぇ・・・」
「確かにあれがいなくなれば、漁師たちは皆助かるが」
「漁師だけじゃねぇ。国の港街全体に、元の活気が戻って来るってもんだ」
「主が居なくなれば、ねぐらにしているダンジョンも探索できるようになるし、冒険家も喜ぶだろうな」
「でもそれをするのが、あの半裸のにーちゃんじゃあナァ・・・」
「キャーッ!イケメーン!王子様ーっ♡」
「ハッハーっ!我こそは!黄金の国の王子であるぞ!」
「見ろよ。あのガキたち、ガイコツ盗賊団の奴らじゃねぇか?」
「小汚ねぇ連中が担ぎ上げた奴が、最後の邪竜を倒す?誰がそんな与太話信じるかよ」
「黄金の国の王子!?ジョッシュ王子ですか!?」
この都市の警吏(けいり)が集まって来る。子どもたちの顔がサッと青ざめる。
「そうだぜ!」
「黄金の国の要請を受けて捜しに参りました、ジョッシュ王子!なるほど。ガイコツ盗賊団に誘拐されていたのですね!?もう大丈夫ですよ!」
「見ろ!王子の身ぐるみを剥いで、辱めている!スラムの泥棒風情が!なんと残忍なことを!」
「それは誤解だぜ!この子らは、私が雇った宣伝担当者たちだ!」
「王子!今すぐ助けます!」
「誤解だぜ!話を聞け!私は大丈夫だぜ!子どもたちを逮捕しないでほしいぜ!」
「王子を助けろぉぉ!!」
「メアリー!みんなを逃がすんだぜ!ここは私が食い止めるぜ!」
「でもヘンタイ王子!?」
「なぁに!この最強装備があれば!」
ジョッシュは最強剣に力を込め、警吏が死なない程度の威力になるよう、剣を振るった。
しかし、砂漠トカゲを倒した時の衝撃波は発動しなかった。
「なにぃ!?」
「王子を確保ぉ!」
パワーも無い。スピードも無い。半裸の王子は、抵抗虚しく、警吏たちにあっという間に“保護”されてしまった。王子の眼の前で、スラムの子ども達は警吏に捕縛されていく。
「キャー!放してー!痛い痛い!」
「離せこの野郎!」
「助けてメアリー!」
「黙れ!汚いガキどもが!王族誘拐は処刑一択だ!牢で震えて待っているんだな!」
「待ってくれ!止めてくれ!子ども達は悪くないのだ!」
王子の声は届かない。
「そんなはずは!そんなはずはないのだぁ!」
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