第4話 灯

「シリーズ補整?」

 すっかり意気消沈し、青い顔をしたジョッシュに、父王が告げる。

「シリーズ補整とは、同じ鉱石から錬成した一組の武具すべてを、完全に装備して初めて、ステータスに補整が得られる仕組みじゃ。“最強装備”で言うならば、剣、盾、兜、胸当て、帯、靴の六種一組を指す。どれが一つ欠けても補整は得られぬ。それが最強装備の弱点じゃ」

「じゃあ、私が警吏に簡単に捕まったのは」

「何か一つ――おそらく帯であろう――装備し忘れたのじゃ」

 ジョッシュの脳裏に洞窟での出来事が思い出される。メアリーの前で装備を脱いだ時、洞窟に帯を忘れてきたのだ。

「捕えられた子どもたちは、どうなりますか?」

「どんな事情があるにせよ、最初にお前を誘拐し、身代金を得ようとしたことは事実。かの国の法で処刑されることは、回避できまい」

「彼女らは、私が雇い、自ら同行していた子ども達なのです!彼女らはあの国の失政の犠牲者です」

「仮にそうだとして。余が、かの国の内政に干渉することはできはせぬ」

「しかし!」

「いい加減にせぬかバカ息子がぁ!!」

「ち、父上・・・」

「そもそも、お前が余に黙って他国に赴いたことが原因ではないか!お前が黙って国に留まっておれば、こうはならなかったのだ!」

「・・・!!」

「今回の事は・・・残念に思う」

 寝室から出て行く父王。

「私は、何という愚かなことを!」

 ジョッシュは上質な枕に顔をうずめ、拳を叩きつけて歯ぎしりした。

 しかし一通り自責の念に泣き明かした後、再び顔を上げて言った。

「私には知らねばならぬことがある」




 ジョッシュは、ヨーゼフと共に城下町を見て回ることにした。衰退した、かつての“装備品の国”。あの国ほどでないとしても、城下町の子ども達の目には生気が無かった。

「私は漠然と国の再興を夢見てきた。かつての賑わいを取り戻したかった。でもそれは、装備が売れて国が金持ちになれば良いということだったのだろうか」

(ガイコツ盗賊団子どもたち。幼い孤児が集まって飢えを凌ぐために盗みを働く)

「ヨーゼフ」

「なんでしょう、王子様」

「子どもとは何だ」

「“未来”であると、わたくしは考えます」

「然(しか)り。世界が平和になっても。国が金持ちになっても。子どもたちが安心して暮らすことができないのなら。その国に未来は無い。どこの国だろうと同じだ。国の再興は、子どもたちの平和無くして、成立しないのだ。焼(く)べる者がいてこそ、灯は輝き続ける。ヨーゼフ!!」

「なんでしょう、王子様」

「そなたは何者か」

「わたくしは、王家に仕える者、執事長ヨーゼフに御座います」

「では頼みがある」

「何でしょう」

「私のために、命を捧げてくれ」

「御心のままに」




――――――――


「襲撃!襲撃!!刑務所に侵入者あり!!すぐに捕縛せよ!!」

「一体何者だ!?」

「襲撃者は二名のようだ!だが目視できない!速すぎるぅ!!」

 植物の仮面を被った何者かが、看守の後ろに回り込み、喉にナイフをあてる。

「動くな。抵抗すれば命は無いぜ」

「ヒィッ!お助けーっ!」

「ガイコツ盗賊団の子ども達が収監されている牢に、案内するんだぜ」


 激しい爆音とともに、牢屋の壁が砕け散る。メアリー、バルバをはじめ、子どもたちは驚いて反対側へと退く。もうもうと立ち昇る土煙の中から、仮面を被った半裸の青年と老紳士が現れた時、子どもたちは声を揃えて叫んだ。

「ヘンタイ!ヘンタイ!!」




「私の夢を、君に託す」

 無花果の葉でできた仮面を被った青年が、装備品をメアリーに差し出す。

「あなた、あのヘンタイ王子様ですよね」

「誰の事かな?彼は自分の国で、何不自由なく暮らしているはずだ」

「だってその声。その香り」

「彼は国の再興を願っていた。そして、君たちの幸せも。この武具を好きに使え。これは、君たちの未来を変える、最強の装備品である」

「やりたいことがあるなら、自分でやりなさいよ。私は知らないわ」

「君たちの盗賊団としての人生はお終いだ。犯してきた罪は私が被る」

「何を言って」

「仮面の紳士よ。子どもたちを――“未来”を頼んだぞ」

「身命を賭して」

「あぁ。これで灯は継がれた」


「いたぞ!!あそこだ!!」

「追手が来る!私が引き付けるから、早く!!ハッハーッ!!ガイコツ盗賊団最後の構成員は、ここにいるぞぉ!!」

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