第2話 出会い

「あぁ・・・!我が愛する子ジョッシュ!」

 ベッドから天井を見つめ、つぶやくゴードン王。

「まだ見つからぬのかヨーゼフ!いててて・・・」

 顔をしかめ、腰を押さえるゴードン王。

「王よ。申し訳ございません。王妃自ら陣頭指揮と執り、騎士を方々へ探索に向かわせているのですが、未だ見つからず」

「あやつは泳ぐことすらできぬのだぞ!!国境付近には魔物もたくさん生息しておる!ジョッシュに何かあれば余は・・・!」

「心配はありますが、魔物については、ただちに危険ということはありませぬ。魔王討伐以降、国の近辺に生息している魔物は、手強いものでもB級程度。まして、我が君の“最強装備”を身に着けておりますれば、まず、負けるということはないかと」

「そなたは分かっておらぬ。あれは確かに、全てのステータスを飛躍的に上昇させる最強装備であるが、弱点もあるのじゃ!」

「弱点・・・ですか?」

「ジョッシュにはその説明はしておらぬ!いいから見つけよ!今すぐにじゃ!」

「御意!!」




――――――――――


 王子の旅は行き詰っていた。

「ここはどこだぁーーーっ!!」

 黄金の国の国境を越えてから、休みを挟みつつ数日歩いたが、四方に見えるのは荒地のみ。人っ子一人いない。

「装備品を売り込むには大きな街に行かねばならぬ。しかし、街の場所が分からない。こんなことなら、もっと入念に準備をしてくるべきだったぜ。せめて地図があれば。だが!何とかなる!とりあえず、最後の弁当を食べるかぁ!」

「誰かーっ!助けてー!!」

「今のは、女性の悲鳴!?」

 すぐさま立ち上がり、悲鳴の聞こえた方へ駆け出す。瞬間、ジョッシュは奇妙な感覚を覚えた。景色が走馬灯のようにグングン流れていく。

「脚が・・・速い!!」

地面を蹴り出す度に、みるみる加速していく。

「さすがは父上が錬成した最強の靴!素早さ補整がダンチだぜぇ!!ヒャッハー!」

 腰回りを隠している分補正値が下がり、本来の状態とは言えない。それでも、世にある名工の装備品をゆうに超えるスペックなのだ。

 遠くを見ると、女性は馬に乗っていた。その後ろを大型の砂漠トカゲが追跡している。

「あのままではマズイ!馬もろとも一呑みにされてしまうぜ!」


「キャー!助けてー!!」

「そこの女人(にょにん)!大丈夫か!?今すぐ私が助けるぜぇ!」

「どなたかは存じ上げませんが、本当に・・・ん?!」

 馬で駆ける自分のすぐ隣を、ほぼ全裸の青年が、並走して近づいて来る。

「きゃあああ!!ヘンタイーーー!!助けてぇええ!!」

「なぬ!?ヘンタイとな!?一体どこに!?」

 大型の魔物と半裸の少年に追われ、女性は完全にパニックになってしまった。

「あぁ!!」

 手綱の操作がめちゃくちゃになり、馬がつまづいてすっ転ぶ。

「大丈夫か!?」

「やめてー!近寄らないでー!!ヘンタイにヘンタイなことされるー!!」

「私のことだった!?そなたを助けようとしているだけだぜ!」

 グォォオオ!!

「説明は後!今はこの魔物を退治せねば!」

 ジョッシュは腰にさげていた透明な剣を引き抜き、魔物の真正面に構えた。

(武術の訓練は受けてきたが、実物の魔物と戦うのは初めてだぜ!相手も大きい。・・・だが!!)

「この初陣!負けるわけにはいかないぜ!!最強の剣よ!その名に相応しいチカラを見せろぉ!!」


ザンッ!!


 ジョッシュは最強剣を下から上へと斬り上げた。

一刀両断。力強く念を込めた剣は黄金色に光り輝き、衝撃波と共に、砂漠トカゲを縦に真っ二つに切り裂いた。紫色の血しぶきが周囲の荒れ地に降り注ぐ。砂漠トカゲは完全に絶命した。

「やった!やったぞ!!女人、私の剣技見た!?見たよなぁ!?」

 返り血で血まみれになった顔に、笑みを浮かべて振り返る青年。女性は白目を剥いて倒れた。

「おい!大丈夫か!?キミ!!しっかりするんだぜ!」




――――――――――


「・・・何も、そんなに距離を取らなくてもいいはずだぜぇ・・・。私はそなたを助けたんだぜぇ」

 ジョッシュは気絶した女性を、荒れ地に洞穴で休ませていた。気がついた女性は身をすくませ、洞穴の奥の方へと入り込み、警戒の眼差しをジョッシュに向ける。

「そう思わせといて、ワタシを襲う気かも。こんな暗がりに連れ込んだのがその証拠よ!」

「この炎天で健康を害してはならぬと判断しただけだぜ。それに、私は黄金の国の王子!王子たる者。無礼なことは決してしないんだぜぇ!」

「王子・・・様?」

「そうだぜ!見よ!この徽章(きしょう)が目に入らぬか!」

 ジョッシュは黄金の国のエンブレムが入った徽章を掲げる。

「それは、黄金の国の・・・。もうとっくに滅びたと思ってました」

「滅びてないぜ!現在進行形で存在してるぜ!」

「本当に王子様なんですね。確かに顔立ちには気品があります。ヘンタイのクセに」

「ヘンタイは余計だぜ!今は事情があってこんなナリをしているが。そうだ、装備を取ればこの通り」

 ジョッシュが身に着けていた剣、盾、兜、胸当て、帯、靴をぬぐと、透過が解除され、いつも着ている上質な王服姿になった。アガっていたテンションも、元通りになる。

「本当のようですね。それなら・・・」

「え?」

 目にも止まらぬ早業。ジョッシュは気づいた時には既に縄で拘束されていた。

「えぇ!?」

「バカでヘンタイの王子様は、“こういうの”がお好きだと思って」

「ヘンタイなのはあなたなのでは!?一体何をしている。早く解いてくれないか。私は祖国再興で忙しいのだ」

「ごめんなさい。そうはいきません。あなたのお父様に身代金を要求するので、このままアジトに来てくれませんか?」

 緑色の長い髪の毛。潤んだ垂れ目。田舎娘のような地味な服装。胸に手を添える可憐な仕草とは裏腹に、物騒なことを言ってくる。

「キミは一体?」

「ワタシ、メアリーって言います。盗賊団の首領なんです」

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