琺瑯者たち
伊島糸雨
琺瑯者たち
救いなどどこにございましょう。純然と在るのは錆びた月の色ばかりです。都市は星の海に変わるだろうと女王は仰せになりました。それももう、ひと月前のことにございます。
私にはあの結晶が呪いか祝福かなど皆目見当もつきません。
女王陛下の主治医であった篆刻家の
寝室には瑝凜様だけが入ることを許されておりました。陛下はひとり露台から空を眺むのを好むようなお方でしたから、宮仕えの者は皆驚いたものでした。今ではその意味も、わかるような気がいたします。
私はここに残るつもりです。陛下のおっしゃった都市の姿を──星の海を見てみたいのです。あのお方は、美しきものを愛しておいででした。私は終ぞお傍に立つことは叶いませんでしたが──こうしていると、陛下が私を見ていてくださるような気がするのです。遠く月の都から、私が錆びた光に変わりゆくのを、見ていてくださる気がするのです。
陛下もきっと、今の私と同じ理由で、月を見上げておられたのかと思います。ですから、貴女は陛下にとってそのような存在であったのでしょう。
ああ、どうかお気をつけて。貴女が手にした月の琺迹が、呪いではなく祝福でありますように。
いつかお戻りなったその時には、貴女が叶えた願いの果てを、どうかご覧なさいませ。
琺瑯者たち 伊島糸雨 @shiu_itoh
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