第8話

スライムに対して魔法を使いたいがどうやったら攻撃に使えるかがわからない。頭を抱えていると海翔からアドバイスが飛んでくる。


「魔法で生み出した物は基本的に術者の自由に操れるんだ。だから俺みたいに水属性を持っていたら今みたいに魔法で水を生成して前に打ち出して攻撃、なんてことができる。これ自体は親和性が1でもあればできる簡単な動作で、2とか3とかになってくるともう少し大きめの水の槍を飛ばしたり、水の弾を複数同時に飛ばしたりできるようになるぞ」

「俺は水は出せないしな...うーん」

「錬金術で生み出した物を飛ばしたりってのはできるのか?」


そもそもやってみようとしたことがない。自分の常識になかったからそんなことができることすら知らなかった。


「そもそもやったことがないしな...とりあえずやってみるか」


ダンジョン内に落ちていた小石を拾って


「錬金」


とつぶやきメニューを出す。そしていつもみたいに変形を...


「お、おいおい待て待て、俺視点からは見えないんだけど、もしかして錬金魔法のメニュー出したか?」

「ん?出したけど」


海翔に止められた。何か悪いところがあっただろうか。


「それ、お前毎回戦闘中やるつもりか?いちいちメニューだしてなんてやってたら間に合わねえぞ」

「でもこれしないと錬金...」

「いや違う、確かに俺も最初に魔法を使おうと思ったときにお前のと似たようなメニューが出てきた記憶があるけど、このメニューってあくまで魔法発動の補助でしかなくて、意識すると一連の動作を全部頭の中で出来るようになるんだよ」


そんなの知らなかった。確かに戦闘中に毎回メニューを開いていたら危ない。とんでもない隙を晒すことになるな...うーん、そうか、頭の中で出来るのか...


「これは俺の独学になっちまうんだが、魔法を使うために必要なイメージをいくつかの段階に分けて確立させて、魔法発動に必要な段階の流れを方程式みたいに頭の中で作るんだ。【魔法発動に必要なステップ1】+【魔法発動に必要なステップ2】=【魔法発動】みたいな感じだ。んでそれを詠唱と結び付けると楽になるぞ」

「???」


何を言っているかよくわからない。


「んーあ、例えば俺の場合は、【右手の先に直径15cmくらいの水の弾が生成される】+【時速150㎞くらいの速度で射出される】、っていうイメージを持って、その一連の動作を水弾アクアバレット、って名付けたんだ」

「なるほど!!凄いな、さすが理系」


海翔が魔法を使うときはそうやってイメージしているのか、理系らしいがとても分かりやすい。


「そ、でそれを何回も練習する、すると段々水弾アクアバレットって言った時に頭の中で何が起こるかっていうのを自然に体が覚えていくんだ。だから俺は水弾アクアバレットって言うだけで頭の中でいちいちイメージしなくても水の弾を射出できる」


確かにメニューを使いながら変形とか変質とか押した時も、何に変形するか、何に変質するかをイメージしながらやった。ってことは魔法はイメージが凄い大切なんだ。


「あくまで俺が魔法を使うときはそうだってだけで、玲が俺と同じようにやる必要はない。ただ毎回メニュー出して選んでやって、なんてやってたら遅すぎて勝てる相手にも勝てないからな、あ、あと気をつけなきゃいけないのが、自分の親和性で再現できる以上のイメージを持っても魔法は不発するってところ。要するに自分のステータスとMPと親和性に見合った魔法を使えってことだ」

「なるほどね、うーん...」


イメージが大切か...とりあえず海翔がやっていたようにやってみることにする。


・手の中に持っている小石が鋭い円錐形に変形する


この後射出しても良いんだが、もう一工夫加えたいから...円錐形になった石がまっすぐ飛びやすいように


・変形した円錐形を螺旋の模様が入った形に変形させる。


いや、遅いな。ここの2つの段階は1つにまとめられる。この2つを簡略化すると


・螺旋模様が入った円錐形に変形させる


うん、こっちの方がイメージするのも速いはず。そして海翔曰く魔法で生み出したものは自由に操れるから、石の螺旋模様に沿って空気が流れるように回転力をかけて...目の前に時速150㎞程で射出する。


よし、これならいけるはずだ...行け!俺の初戦闘型魔法


【螺旋模様が入った円錐形に変形させる】+【時速150㎞でまっすぐ射出する】


「ろ、石回転銃ロックライフル!!......あれ...?」


手の上に置いた小石は螺旋模様が入った円錐形に変形したが、微動だにしなかった。


「うーん、変形するところまでは上手く行ってたけどそのあとがダメっぽいな。てことは錬金術自体は発動してるんだろうな。ん-、変形させた後はどういうイメージを持ったんだ?」

「時速150㎞でまっすぐ射出されるイメージ」

「あぁ、そりゃ速すぎ。親和性1だと多分行けて時速100㎞程度じゃないか?」


俺の親和性やMPだと時速150㎞で射出するのは速すぎるのか。身の丈を超えた魔法を発動させようとしてたみたいだ。なら海翔が言うように150㎞じゃなくて時速100㎞で...今度こそっ


石回ロックラ...」

「まあ待てって」

「え」


意気込んでいた俺を止めてきた海翔の方を振り返る。


「それは親和性1のおおよその限界速度だ。玲はレベル1だしMPも多分20くらいしかない。そんな状態で時速100㎞で射出したらMPがごっそり持ってかれんぞ。威力は出るかもしれないがそれだと継続して戦い続けることが出来ない。毎回魔力薬飲むわけにもいかないし毎回最大火力をぶっ放すのはダメだ。とりあえず時速80㎞くらいで撃ってみろ」

「わかった、石回転銃ロックライフル!」


今度はしっかりと魔法が発動し、射出された螺旋模様の円錐はスライムの真横をかすめて飛んでいった。


「当たらなかったか...難しいな」

「最初はそんなもんだ。ステータス見てみな?」


海翔にそう言われてステータスを確認すると、20あったMPが15になっていた。


「悪い、最初に時速150㎞で飛ばそうとして失敗した時に使った錬金術のMP減少分を確認してなかった。これ飲んでもう一回同じようにやってくれ」


渡された魔力薬を飲んでステータスを確認するとMPは20に戻っていた。というか、魔力薬って結構美味しいんだな。甘いジュースみたいな味がする。


また足元の小石を拾って人差し指と中指で挟むように持つ。


「今度こそ、石回転銃ロックライフル!!」


指の間から吹っ飛んで行った石は寸分違わずスライムの真ん中を撃ち抜いてスライムは霧になって消えていった。


「うん、うまく倒せたな、今のMPはいくつくらいだ?」

「20から16になった」

「ってことは玲のその魔法はMPを4消費する魔法ってことだ。これからわかるのは、石を変形させるために使うMPは1で、80㎞で射出するには3使うってことだ。さっきは生成して射出できなかったからな、1しか使わなかった。だからさっきの残りMPは15だったんだよ」


なるほど、80で飛ばすだけで3も使うなら100㎞で飛ばしてたら4か5は使うだろう。俺のレベルの低さだと撃てる回数が1違うのは致命的な弱点になり得るから気をつけなくては。


「作るより飛ばす方がMP使うんだね」

「そうだな、俺も水の弾を作るより弾を飛ばす過程の方が使われるMPは多い。だから何となく予想はできてたが、実際に身を以て知ってほしかったんだ。でも俺が言いたいことは大体伝わっただろ?」

「うん、わかった」


海翔はすごい、家で魔法の検証をしていた時より断然理解が深まる。やっぱり実戦で魔法を使ってきた人に教わるのはとんでもなく参考になるな。これを一人で見つけた海翔って一体どれほど...


「まだ暗闇の中を進んでいる感じだろうし、俺と玲は属性は違う。だけど俺の魔法に関しての考え方とか、魔法の発動の仕方とかはある程度参考に出来ることはあると思うから、頑張って吸収してくれ」

「ああ、全部学んで身につけてやる」

「その意気だ。残りの魔物もサクサクやるぞ」

「おう!」



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