身代わりの少女
古島似千花は幼い頃から人の視線を気にして生きている。
褒められる為・叱られない為等々の理由とそうではない特殊な理由で。
古島家には似千花ともう一人の子供がいる。
古島千花、似千花の姉だ。
千花とは2つ歳が離れていて現在千花は高校1年生。普通であれば学年1位の実力は姉から勉強を教えてもらっているから〜だとか逆に姉と張り合って〜だとか言えるだろうし寧ろ姉妹に興味がない等と悪態をつくことも出来るかもしれない。しかし似千花の現実はそんなものではない。小学5年生から患っている難病の所為で千花は言葉も話せず運動は勿論勉強も生活すらもままならない。
親を取られてしまったという悲しい感情と姉のことが大好きだから助けたいという感情が複雑に絡まっていた。
ある日母親に呼び出された似千花は衝撃の告白を受けた。
「千花の人生を送ってあげてほしいの。
双子ではないけど貴女達は顔が似てる、声が似てる。千花に千花が喜んだり泣いたりする姿を見せてあげたいの。」
2人がもっと幼い頃から母親には情緒が安定しない側面があった。
母が良かれと思い娘に言ったことを娘が否定すると気が狂ったように怒鳴り散らすのだ。
逆にいえば気に障ることを言わなければ優しい理想の母親のままでいてもらえる。
似千花の脳には既に断るという選択肢がなかった。
千花は頭が良かった。
天才といわれるであろう存在で一度見れば大学生でも苦戦するような問題だって解けたし
一度授業を聞けば聞いた内容を一言一句違わずに復唱出来た。
完璧に、は無理でも似千花は千花の人生を代わりに歩んでやらなければならない。
今まで苦手で嫌いだった勉強に必死で励み親に千花が褒められるように。
千花は気が強かった。
価値観が変わっているところがあってそれを曲げない頑固さで友人が少なかった。
だからコミュニケーション能力に長けていた似千花も友人を減らさなければならない。
小学校の同学年の殆どが友人だったが千花として生きるために友人を減らそうと考えた。
頭の良さを活かして友人を減らしに私立中学へと進学。母が似千花を千花として叱れるように相談できるように。
似千花はよく知らなかったが千花は家で何らかの機械に繋がれて一日中を眠って過ごしていた。辛い筈のその姿が似千花にはとても怠惰なものに感じてならなかった。
姉を殺そうとしたことも幾度となくあった。
器具を外してしまえば千花は無力な抜け殻と化す。事故で済ませることも可能である筈なのに似千花にはそれが出来るはずもない。
「あんたのせいで、わたしの貴重な自由時間は無くなって。お母さんは不安定になって、
お父さんも仕事とかいって中々帰って来ないじゃん!!お金もあんたに幾ら使ったと思ってんだよっ!あんたの人生は....わたしが作ってやってんだよ。」
勿論姉からは何も返答がない。
出来ないのだから。
聞こえているかもわからないやりようのない言葉をサンドバックを殴るかの如く刻む。
「何とか言えよ...クソ姉貴。
....ごめんね姉さん。無理だよね、あんたじゃ。もう何も期待しないから。大丈夫。」
何かが吹っ切れた気がした。
姉は似千花のことだけは守っていた。
だから似千花も1人だけ自分と重ねる守る存在を選んだ。それが冴だ。
守りたい訳じゃない、ただ姉が1人に対して愛を向けていたから自分も1人に向ける。
作業のようなそんなものだ。
弱々しい冴を守って褒められる。
それは姉が妹を守って褒められることを意味している。無理矢理な想像を押しつけて自分勝手に冴を守った。
罪悪感はあったけどもう気にしないことにしている。
そんな矢先に...........轢き殺された。
〜〜〜数日後
『事故に遭ったのは〇〇中学2年生の古島似千花さんであり、所持品には死にたい等と書かれた物が........。』
テレビのニュースが家に響き渡る。
彼女を寂しがらせない為に親が外出する時はずっとつけられているテレビ。
全て彼女には聞こえている。
テレビの音も狂った母の声も悲痛な妹の叫びも。話せない、動けないだけで頭も耳も目もしっかりしている。
外で母親が取材を受けている声が聞こえる。
話しているのは妹への悲しみではなく彼女の手術代の募金についてのようだ。
妹の死をきっかけに姉の体調に皆の関心を惹こうとしている。
「.......に、、ち..か。」
暫く動かなかった声帯が稼働したような気がした。
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