第475話 ブランシュ
目的地となるブランシュを発見したキリーとルナ。ふわふわとした白い物体に苺が乗っている看板に『ブランシュ』と書いてあった。
この物体、キリーは見た事があった。
「へえ、ケーキを看板に使ってるんですね。お菓子のお店だって分かりやすいですね」
「ケーキ?」
「ええ。ルナも行った事のあるあの食堂で食べられるんですよ。ふわふわしてて甘くておいしいんですよ」
「にいさん、それはずるい」
キリーから聞かされて食べたくなってしまったルナである。
ぶーぶーと文句を言っているが、さすがに通りでそれをやっていると目立ってしまう。キリーはルナを促して店の中へと入っていった。
店の中に入ると、外観同様にきれいにされた店内の様子が目に飛び込んできた。人気のお店らしくかなりの客で混雑している。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
中に入ると店員が声を掛けてくる。
「2名です」
キリーはすんなりと答える。例の食堂でこのやり取りには慣れていたからだ。
「畏まりました。ただいま店内が混みあっていますので、しばらくそのお席でお待ち下さい」
確かに空いている席が見当たらない。そのためにキリーとルナは入口の席で待たされる事になった。
「うう、早く食べたい」
「我慢ですよ、ルナ。しかし、こういう店のタイプだとは思いませんでしたね。お持ち帰りには対応していないのでしょうか」
「すみませんね。お食事もお持ち帰りも同じように対応させて頂いていますのでご了承下さい」
キリーの呟きに、入口で対応している店員が答えていた。それなら仕方がないなと、キリーはおとなしくルナの相手をしながら待つ事にしたのだった。
ようやく席が空いて、キリーたちは中へと通される。すると、案内された席に一人の人物が既に座っていた。
「やあ、お待ちしていたよ。ルールだから仕方ないとはいえ、待たせてしまってすまなかった」
「えっ? エルフですか?」
座っていた人物が話し掛けてきたのだが、キリーの反応はそれだった。
「エルフを知っているのかね?」
「はい、師匠の友人であるジェシカさんとか、複数人お会いしました」
「おお、ジェシカを知っているのか。なら納得だね」
キリーの回答に、目の前のエルフはにこにこと反応をしていた。ジェシカの事を知っているというのは、素直に驚きだった。
「ポッティとかいったかね、エルフは元々その辺りの出身なんだ。私もそうなんだ」
「そうなんですね。では、どうしてこんな遠く離れた場所に?」
「単に新天地を夢見たからさ。ちなみに私はジェシカとともに森を出たエルフの一人だよ。……と名乗っていなかったね。私はチェルシーだ。こんな喋り方でこんな格好をしているが、女性だよ」
「えっ、女性なんですか?!」
チェルシーの姿を見て驚くキリーである。なにせマニエスだとかゴルベ、それにヴォルグが着ているような服装を着ていたからだ。
「この格好は私の趣味だよ。まあ気にしないでくれ」
くすくすと笑うチェルシーである。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「そうだね、私のおごりでいいから、この子たちにケーキと紅茶を頼もうか。もちろん私の分もね」
「畏まりました。ケーキセットが3つでございますね。しばらくお待ち下さいませ」
やって来た店員に注文をすると、チェルシーは再びキリーたちを見た。
「しかし、こんな場所で天の申し子たちに出会えるとはね。長くは生きてみるものだよ」
「えっ!?」
「私たちの事、知ってる?」
チェルシーの言葉に警戒感を露わにするキリーとルナである。
「私たちエルフからしたら常識だよ。天の申し子は魔力が独特だからすぐに分かるものだしね」
ひたすらにこにこと笑っているチェルシーである。あまりのうさん臭さにキリーとルナが警戒を段々と強めていく。
「お待たせしました。からかうのも大概にした方がいいですよ、領主様」
「はははっ、すまないね。癖なんだよ」
やって来た店員のお小言に驚く。チェルシーの正体についてさらって言及されたからだ。
「えっ、領主?!」
「なんの、冗談」
「冗談でも何でもないよ。そっちのメイドの子の魔力は何度か感じたから、こうやって待っていたってわけだ。ようこそブランの街へ」
驚くキリーたちににっこりと微笑むチェルシーである。
「私としては君たちを歓迎するよ。さぁ、この街自慢のケーキと紅茶を味わってくれたまえ」
目の前に運ばれてきたケーキを示しながら、チェルシーはキリーたちに話し掛けている。
「白い方がブランシュトー、茶色い方がマローマント。どちらもおすすめだよ。紅茶もこのケーキに合うように淹れ方を研究したからね」
「へえ、そうなんですね。それでしたら、僕も参考にさせてもらおうかな」
チェルシーの言葉に、キリーはものすごく反応をしている。さすがはメイド服を好んで着るだけの事はある。
「はははっ、そんなに気になるのだったら、この後領主邸に招待するよ。いろいろ話を聞きたいと思うからね」
チェルシーは興味ありという視線を送りながら、キリーたちに提案をしている。
キリーたちはうさん臭さを感じながらも、顔を見合わせた後、チェルシーの提案を受け入れたのだった。
話がひとまず落ち着くと、キリーたちは紅茶とケーキをしっかりと味わっていた。
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