第474話 双子のブラン散策(商業区画)
街へ出たキリーたちは、おかみさんの紹介してくれた商業区画内にある屋台の並ぶ場所へとやって来た。メインの街道との境目付近なので、もの凄い人だかりだった。
「人が多すぎる」
ルナは露骨に嫌な顔をしていた。
しかし、この程度の人通りであればスレブにしてもスランにしても経験しているはずだ。なかなかにおかしな反応だった。
その様子を見ていたキリーは、おそらくはブランという新しい街、知らない環境が原因ではないかと推測した。なにせ、キリーにしても新しい街というのは緊張するものである。ルナの場合はそれが特に顕著なのかもしれないと考えたのだ。
だからといって、ルナに無理強いするわけにはいかない。そう思ったキリーはルナの近くに立ってその手をそっと握った。
「にいさん?」
急に手を握られたものだから、ルナはびっくりしてキリーを見る。すると、キリーは黙って微笑んでいた。まるで安心して下さいと言っているような感じだった。
「にいさん、ありがとう……」
ルナはほっとしたらしく、小さくお礼を呟いていた。
そんなわけで、気を取り直して屋台巡りである。
ブランの街は北の方の少々寒い地域という事で、スランとは植生が違っている。その関係で屋台に並ぶ野菜は当然のようにスランとはかなり違っていた。とはいえども、同じようなものも並んでいたので、そこはちょっと安心したようである。
「おう、見ない顔だな」
屋台を見ているとおじさんに話し掛けられる。
「はい、ちょっと用事があって遠くからやって来たんです。初めまして」
それに対してキリーは気さくに言葉を返していた。散々旅をしまくってきたので、もう慣れっこなのである。
「おお、いいねえ。元気があるのはいい事だ。……にしても、そっちのお嬢ちゃんは静かだな」
「すみませんね。妹はちょっと旅慣れていないものでして、恥ずかしいみたいなんです」
「おっ、そうか。なら仕方ねえな」
屋台のおじさんはガハハと笑っている。
「おう、歓迎代わりにこれをやるよ」
「これは?」
おじさんが差し出してきたものを見て、キリーは思わず首を傾げた。
「このブランの辺りじゃよく採れるマローって木の実を使ったお菓子だ。このブランじゃ知らない者は居ないってくらいのお菓子だぞ。まぁ食ってみろよ」
おじさんはそう言いながら、どこからともなく椅子を出してきてキリーたちを座らせる。言葉に甘えて椅子に座ったキリーたちは、マローのお菓子をじっくりと見る。そして、はむっとかぶりついた。
「うん、甘いですね」
「おいしい」
「おお、そうかそうか。この商業区画にあるブランシュって食いもん屋が作ってるお菓子なんだ。俺も好物でな、小腹が空いた時用に買ってから屋台を開いてるんだよ」
見るからに筋肉質そうなおじさんだが、意外な事に甘いものも大丈夫なようである。
「で、ついでに宣伝なんだが、このシュローとかどうだい? 生のまま食べてもいいし、焼いても煮てもいけるっていう野菜なんだ。どうだい、メイドの格好してるんだから、料理も得意なんだろう?」
「まぁそうですね。僕は冒険者ですけれど、料理も好きですからね」
「なんとまぁ、そんな可愛い格好していて冒険者なのか。人は見かけによらねえんだな」
キリーがにこやかに返すと、おじさんは本気で驚いていた。
おじさんがあまり信じていないようなので、キリーはちょっとキレ気味になりながら冒険者証をおじさんに見せていた。
「金級冒険者……だと?! これは失礼すぎたな」
頭の後ろに手を当てながら、キリーに謝罪するおじさんである。
「こっちの妹は冒険者ではないですが、僕ばかり世界を知るのも悪いですから、こやって見せて回ってるんですよ」
「へえ、妹思いな嬢ちゃんなんだな」
「ええ、可愛い妹ですから」
キリーがにっこりと微笑むと、ルナも嬉しそうに笑っていた。どう見ても仲の良い姉妹である。
「では、シュローとマローを貰っていきましょうか。おいくらですか?」
「おう、このひと山で銅貨50枚ってとこだな」
「分かりました。では、ひと山ずつ頂きましょう」
交渉が成立したので、キリーは合計で銀貨1枚を支払う。かなりの量なので、このくらいの値段は当然なのだろうとキリーは納得していたようである。キリーは購入すると収納魔法へと放り込んでいた。
「うへぇ、そんな魔法まで持ってるのか。冒険者ってのはすごいもんなんだな……」
「まあ、たしなみですね」
キリーはごまかすように笑っていた。
「では、先程のマローのお菓子を売っているというお店に行ってみましょうか」
キリーはルナの手を取って立ち上がる。
「おじさん、ありがとうございました。また来た時には買わせて頂きますね」
「おう、嬢ちゃんたちは気を付けてな」
挨拶を交わすと、キリーたちはおじさんの屋台を後にしたのだった。
次の目的地は、マローのお菓子を作っている「ブランシュ」というお店だ。
いきなり楽しみができたキリーは、にこにこと笑顔でルナの手を引きながら街を歩いていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます