第466話 ブランの街を1人行く
ハスールと別れたキリーは、ひとまずブランの街を改めて歩く。せっかく来たというのに何も堪能しないで帰るのはどうかと考えたからだ。
キリーはまず冒険者ギルドに向かい、そこで商業ギルドの位置を確認する。そして、そこでブランの街の名産などを聞くという回りくどい方法を取った。商業ギルドとも伝手を作っておくためである。
キリーは冒険者ではあるものの、ヴァルラの影響でポーションやら魔道具にもそれなりに精通している。なので、商業ギルドに対しても十分売り込めるだけの実力を備えているのである。だからこそ、商業ギルドにも顔を出したのだ。
情報を聞くと同時に商業ギルドともつながりを作ったキリーは、ブランの街の中を歩く。名物なるものがあるらしいので、商業区画へと顔を出す。ちょうど中央の左右に分かれた道の領主邸方向とは逆の道が商業区画となる。食堂や服飾店、それに鍛冶屋なども軒を連ねており、その脇道の先には鉱山があるらしい。
鉱山を保有する街というのは珍しい。
少なくとも、キリーが今まで行った場所の中には鉱山はなかった。それがゆえに、鉱山の話を商業ギルドで聞いたキリーは、目を輝かせてしまったのである。
しかしだ、時間はちょうどお昼時であるので、とりあえずは食事を取る事にしたキリーである。
ブランの街はノレックから下ってきた低い位置にある街ではあるものの、寒い時期は雪にすっぽりと覆われてしまう特徴がある。その雪解け水が豊富とあって、農牧業もかなり盛んなのである。
ブランの近くにある村では、牛やら羊やらが飼われているし、野菜だって作られている。そのため、ブランはそれに関連したものが豊富にそろうのだ。
キリーは商業区画を歩いている。さすがにここではキリーの知名度は低いので、メイド姿の子どもが歩いているという事で、妙な視線も向けられるというものである。
「おやおや、お嬢ちゃんが1人で買いものとはすごいわね。どこから来たのかしら」
「はい、スランから来ました」
「あら、スランってどこかしら?」
「ノレックから峠を越えた向こう側にありますよ。こちらでは有名ではないのですね」
「ええ、遠くから来た冒険者の話は知っているけれど、この街で知られている街となると、ノレックと、ここから北にあるアイセンくらいよ」
果物を売っているおばさんが、いろいろとキリーに話してくれた。
どうやらこのブランの街道をさらに進んでいくと、アイセンという街に着くらしい。キリーしてみれば聞いた事のない地名である。
一方で、ブランの人からすれば、実にキリーとは真逆の状態にあるというわけだ。あの峠はしっかりと情報を分断してしまっているのである。
それでも、新たな街の情報を仕入れられたのは収穫だった。とりあえずキリーはおばさんにお礼を言うと、いろいろと買っていったのだった。
とにかく珍しい食材を買い込んだキリーは、ようやく食堂へと入っていく。
食堂に入ると、一斉にキリーに視線が向く。メイド服の人物が食堂に来る事は珍しいので、それはまあ注目を集めてしまうのだ。
「見ないメイド服だな」
「よそ者かな?」
ひそひそと話をする声が聞こえてくる。
「しかしよう、どう見てもガキじゃねえか」
「1人でこんな所に来るなんて、一体何があったのかしら」
雑音がいろいろと聞こえてくるものの、キリーは気にせずにカウンターに腰掛けた。
「おや、可愛いメイドだね。どうしたんだい?」
「初めまして。僕はキリーといって、依頼を受けてここまでやって来ました」
「おや、冒険者なのかい?」
「はい、金級冒険者です」
食堂のおかみさんとのやり取りを聞いていた食堂の中が、一気に騒がしくなる。
それもそうだ。どう見ても子どもなのに、金級冒険者なんて言うのだから。信じられないに決まっている。
これはいつも通りに騒ぎが起きるかとも思われたのだが、それは未然に防がれる事になった。
「あれ、キリーじゃんか。奇遇だな、こんなところで会うなんて」
「スッチさん。僕はお昼を食べに来ただけですよ?」
そう、ノレックで一緒にトレント狩りをしたスッチだった。先日同様、このブランで顔を合わせる事になった。
「スッチ、その子と知り合いなのか?」
周りでキリーの事をあーだこーだ言っていた客たちが、驚いたようにスッチに問い掛けている。
「ああ、ノレックで同じトレント狩りの仕事をしたんだ。いやー、俺たちの出番がねえんじゃねえかってくらい強かったぜ」
「ま、マジか……」
スッチの証言に青ざめながらキリーを見る客である。それに対して、キリーはにこにこと笑っていた。
「しっかしよう、ここで会ったのもなんだ。俺のおすすめでもごちそうしてやるよ」
「あっいえ。代金はちゃんはと支払いますので。おすすめを紹介して頂けるのはありがたいですけれど」
スッチが嬉しそうに言うものの、キリーは真顔で答えていた。
「かぁ~~……。ほんっとうに真面目だなぁ」
キリーから冷たく返されて、スッチはすごく残念そうにしていた。
「まあいいや。おかみさん、いつものやつを2つ頼むぜ」
「あいよ」
注文を受けたおかみさんは料理をさっさと作り始めた。
とりあえず、食堂で起きそうになっていたトラブルは、スッチの登場でどうにか防がれたのであった。
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