第467話 ブランの鍛冶屋

 スッチと食事を済ませたキリーは、いろいろと話を聞かされたものだから、もうしばらくブランの街を散策する事にした。

 そこで、ブランにあるという鉱山を見てみる事にしたキリー。聞けば距離があるらしいのだが、キリーにしてみればあまり苦になるような距離ではなかった。

 エアレ・ボーデでひとっ飛びしたキリーは、鉱山の入口に立っていた。

 鉱山では汗と土埃にまみれた男たちがせっせと働いていた。マスールやハスールにも負けないくらいの筋肉にまみれた男たちばかりで、実にむさ苦しい空間である。だが、キリーは別にそれを気にしている様子はなかった。

「おいおい、こんなところに子どもが何の用だ?」

 キリーは見張りの兵士に見つかって声を掛けられた。

「こんにちは。鉱山がどういうところなのか見学に来ました」

 特に慌てる事なく、キリーは淡々と笑顔で答えている。さすがに冒険者としての経験が増えると、多少の事ではまったく動じなくなってしまっていたのだ。

 しかし、これは逆に相手にとっては警戒を与えてしまう。あまりにも落ち着いているので、兵士は困った顔をしている。

「いやなぁ、嬢ちゃん。鉱山はおいそれと見学できるような場所じゃないんだ。土魔法で坑道は崩れないようにしはしているが、中じゃ何があるか分かったもんじゃねえ。それに見ての通りむさ苦しい男どもの居る空間だ。そんな中に嬢ちゃんみたいな子どもを入れるわけにはいかねえよ」

 見学しようとしているキリーを兵士は必死に止めていた。何かあったら監督責任を問われてしまう、それが兵士が必死に止める理由なのである。

「うーん、それもそうですね。分かりました、今回は諦めます」

「そうしてくれると助かる」

 あまりに必死に止めてくるので、キリーも納得して中に入るのは取りやめたようだった。

「その代わりなんだが、ここに来るまでの商業区画の中で、ここの鉱石を扱ってる鍛冶屋がある。そこへ行けば鉱山の話もしてもらえるだろうから、それで我慢してくれ」

「分かりました。わざわざありがとうございます」

 キリーは頭を下げて兵士にお礼を言うと、そのまま街の方へと戻っていったのだった。

「何だったんだ、あの子は……」

 キリーに応対した兵士は、その手に汗をたっぷりかいていたのだった。


 ブランの街に戻ったキリーは、紹介された鍛冶屋へと向かった。

「ごめん下さいな」

 兵士から教えられた鍛冶屋を示すハンマーの看板を見つけて、キリーは建物の中へと声を掛ける。

「誰が何の用じゃ」

 中からは低い声が返ってきた。どうやら鍛冶屋の人間が居たようである。

「ここに来れば鉱山の話を詳しく聞かせて頂けると聞いてやって来ました」

「鉱山の話か。まぁ聞く事はできるが退屈じゃぞ」

 そう言いながら中から姿が見えてくると、その姿にキリーは驚いた。

「その姿は、ノームですか?」

「なんじゃ、ノームを知っておるのか」

 そう、以前シュトレー渓谷で見た事のあるノームの姿をしていたのだった。

「はい、以前お会いした事がありますので。それにしても、まさかこんな所にまで居るだなんて……」

「ふん、知っているなら話は早いな」

 鍛冶屋のノームは室内にあった椅子に腰を掛けると、自分の話を話し始めた。

「異世界同士を結ぶ扉の事は知っておるじゃろうな?」

「はい、お聞きしました」

「ふむ、わしはそれによってここにたどり着いたんじゃよ。わしはそもそも仲間とはつるんでおらんかったから、1人になったからといって特に寂しくはなかった」

 どこか遠い目をして話をする鍛冶屋のノームである。

「……それにしても、お前さんはずいぶんと不思議な力を感じるな。どこか懐かしい感じもすると思ったが、ノームの力も授かっているのか」

「そうですね。地脈を正す魔法を教えて頂きましたので、その影響だと思われます」

「ふむ……」

 鍛冶屋のノームは黙り込んでしまった。

「あの、鉱山のお話はして頂けるのでしょうか?」

 あまりに長く続く沈黙に、キリーはついつい尋ねてしまう。

「あの鉱山の話をしても無駄じゃな。あの鉱山の鉱石では、お前さんの力を引き出せやせん。むしろ耐え切れずに鉱石の方が負ける。そんな山の話なんぞ、お前さんにしてやる必要はなかろう」

「そうですか……」

 鉱山の話を聞けないとあって、キリーは残念そうにしていた。

「せめて、地脈に触れている鉱山なら、それ相応の武器が作れるだろうが、そんな場所があるだろうかな」

 鍛冶屋のノームは呟くように話していた。

「せっかくじゃ、お前さんの使っている武器を見せておくれ。直せるのなら直しておこう」

 鍛冶屋のノームはさっきまでの無表情とは違って、少し笑顔を見せながらキリーに話している。

「あ、お願いします」

 キリーはその言葉に応じて、収納魔法から普段使いの方の双剣を取り出した。

「ふむ、ちょっと待っておれ。すぐに直してやるからな」

 鍛冶屋のノームは工房に引っ込んでいく。よく分からないうちに武器を修理する事になったキリー。しかし、ノームがいい人だったがために、そのままおとなしく待つ事にしたのだった。

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