第465話 帰宅するまでが里帰りです
翌日、キリーはマスールの家に出向く事にする。実家に帰ってきたハスールがどうするのかを確認するためだ。ブランに戻るのであれば送り届けなければいけないだろうからだ。
「師匠、ハスールさんがブランに戻るつもりでしたら、送り届けた帰りにスレブに寄ってきます。お父さんに会っておこうと思うんです」
その際に、キリーはヴァルラにそんな胸の内を明かしていた。
マスールやハスールたちの家族の事を見て、自分もちょっと会いたくなったのである。妹であるルナは先日会ったものの、父親は会っていない。いろいろと今は忙しいスレブなので、キリーは気になってしまったのだ。
「分かった。そうなるようだったら会ってきなさい。私は止めやしないよ」
ヴァルラは優しくそれを了承していた。
「ありがとうございます」
キリーは両手を前で揃えて深々と頭を下げてお礼を言っていた。本当に礼儀正しい子である。その姿を見て、思わず微笑んでしまうヴァルラだった。
キリーは家を出てマスールの家へと向かう。本当に思ったより離れていないので、すぐに着いてしまう。
到着した時には、家の外でハスールとマスールが兄弟で組み手をして汗を流していた。
「おはようございます、マスールさん、ハスールさん」
「おう、キリーか。どうしたんだ?」
キリーの挨拶に対して、マスールが疑問を返してくる。どうやら昨日の今日で、朝からやって来た事を疑問に思ったようである。
「いえですね。ハスールさんがブランに戻るのかどうか、戻るならいつなのか気になったので、それで様子を見に来たんですよ」
キリーは素直に質問に答える。これにはマスールとハスールが顔を見合わせた。そして、二人揃って大声で笑い出したのだ。
「そうかそうか。わざわざ来てもらってすまないな」
「兄貴なら5日間くらい留まるってよ。せっかく親父とお袋に会ったんだから、少しはゆっくり話をするつもりらしい。だから、来るならまた5日後にしてくれ」
「俺もさすがにそこまで薄情じゃねえからな。顔だけ見てとんぼ返りなんてこたぁないぜ」
筋肉だるまが2人揃って笑い続けている。事情は分かったものの、どうも釈然としないキリーだった。
「とはいえ、スッチの奴が心配なのは事実なんだよな。あいつは俺にとっちゃ弟分だけによ」
ハスールはそう言いながら笑っていた。これはキリーにもなんとなく分かった。スッチは少ししか会ってないとはいっても、思ったより印象に残っているのである。
それはともかくとして、しばらくハスールがブランに戻る事がないと分かったので、キリーは2人の両親に簡単に挨拶をすると、一度家に戻ったのだった。
そして、5日後。
「では、ブランまで送り届けましょう」
キリーはマスールの家にやって来ていた。そんなキリーの姿を見て、ハスールとマスールの兄弟は驚いて顔を見合わせている。
「いや、本当に来てくれるとは思わなかったな」
頬を掻きながら率直な感想を言うハスールである。
「僕にもちょうど出掛ける用事ができましたで、そのついでとなりますけれどね。僕のエアレ・ボーデならブランまでは徒歩の半分以下で着けますから、向こうでの活動にあまり穴は開きませんよ」
堂々と言い放つキリー。さすがにこれには筋肉兄弟は笑うしかなかった。
「ははっ、正直なこったな。だったらお願いしようか」
「任せて下さい」
キリーはポンと自分の胸を叩いていた。
スランを出たキリーとハスールは、すぐさまエアレ・ボーデに乗る。
「何度見てもすごいなこの魔法は。空気の塊だっていうのにしっかり乗れるんだからな」
「しっかりと圧縮していますからね。飛んだり跳ねたりしても突き抜けませんよ」
「そいつはすげえな」
それを聞いて思い切り足で蹴り抜こうとするハスール。しかし、エアレ・ボーデはしっかりと蹴りに抗っていた。
「ちゃんと座ってて下さいよ。防護壁を展開しているとはいっても、早く動く分、不安定ですからね」
「ああ、分かったよ」
キリーの言葉に、ハスールはおとなしく座った。
「それじゃマスール。親父とお袋の事は頼んだぜ」
「任せておけよ、兄貴」
こうして、ハスールはキリーのエアレ・ボーデに乗ってブランへと帰っていった。
スランを出てからたったの5日でブランに着いてしまい、改めてハスールは驚きを隠せずにいた。
「……もう着いたのかよ」
目の前の光景に立ち尽くすハスールである。
「あれ、ハスールさん。もう帰ってきたんですか?」
ブランの入口に立つ門番にこう言われてしまうくらいである。
「ああ、スランまで行って戻ってきたとこだ……」
「やだなぁ、冗談やめて下さいよ」
門番はこう言って、笑いながら本気にしなかった。
それも無理はない。本来なら片道でこれだけの日数を消化してしまうのだから。
「それでは、ちゃんと送り届けましたからね。僕はこれで帰ります」
「ああ、ありがとな」
無事にハスールを送り届けたキリーは、わざと門番の目の前でエアレ・ボーデを発動させて宙に浮かんだ。これには門番は腰を抜かして倒れていた。
「……信じてくれるか?」
「……ええ。信じるしかないですね」
呆然とキリーを見送るハスールと門番。
こうして、驚きと感動がたくさん詰まったハスールの里帰りは無事に終わったのだった。
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