第460話 ブランの冒険者ギルドにて

 ブランの街に足を踏み入れたキリーとマスールは、門番の説明通りに街のメインストリートである街道を進んでいく。2台の馬車が並んでいても余裕のある街道を進んでいくと、確かに途中で似たような広さの道が左右に分かれている場所に出た。

「本当に大きな道が分岐していますね。という事は、ここの角に冒険者ギルドがあるはずです」

「こんな所に住んでるのかよ、兄貴は……」

 冷静に歩くキリーに対して、マスールは街の規模に驚いていた。スランだって3方向の街道が合流しているので規模なら負けていないはずなのだが、どうしてこんな反応になっているのだろうか。

 マスールに構わず辺りを見回すキリー。

「あっ、あそこがそうですね」

 街道の交わる角地に冒険者ギルドの看板を見つけて声を出すキリーである。

「マスールさん、さっさと行きますよ。お兄さんに会うのが目的なんですからね」

「あ、ああ」

 驚きの顔で辺りを見回しているマスールに声を掛けるキリー。マスールは気の抜けた返事をしていた。まったく、なんて反応をしているのだろうか、この筋肉は。通りでぼさっとされても邪魔なだけなので、キリーはマスールを引っ張って冒険者ギルドの中へと入っていく。

 中に入ると、さすがにキリーの場違いな姿に一斉に視線が集中する。冒険者ギルドにメイドは確かにかなりの場違い感がある。これは仕方のない話だった。

 しかし、キリーはそんな事をまったく気にする様子なく、マスールの手を引っ張ったまま受付へと歩いていく。

 受付にやって来たキリーは、そこに座る男性に対して声を掛ける。

「初めまして、ちょっと質問よろしいでしょうか」

「はい、何でしょうか」

 受付の男性は少し驚いた表情をしたが、すぐに冷静に対応をしている。さすがはプロだ。

「ハスールという名前の冒険者がいらっしゃると思いますが、本日はどちらにいらっしゃいますでしょうか」

 ストレートに質問をぶつけるキリーである。

「ハスールさんは本日は依頼を受けておりませんね。どのようなご用件でしょうか」

「こちら、ハスールさんの弟であるマスールという方です。弟さんがお兄さんに会いにわざわざやって来たんです。居場所が知りたいんですよ」

「おやおや、弟さんですか」

 受付の男性がキリーから後ろに居るマスールへと視線を向ける。

「確かに、よく似てらっしゃいますね。とりあえず、お二人の冒険者証を拝見してもよろしいでしょうか」

「それは構いませんが、こちらの質問にはしっかりと答えて頂きますね」

「……分かりました」

 受付の男性は渋々といった表情だった。

 ところが、キリーの冒険者証を確認して表情が一変する。

「金? このお嬢さんが金級冒険者だって?!」

 思わず大声で言ってしまう受付の男性である。周りもしっかりそれに反応してしまう。当然ながら、冒険者ギルドの中は騒がしくなってしまう。

 キリーとしては目立ちたくはないけれど、服装でそもそも目立っている。ちなみにキリーにはその自覚はなかった。

 その騒がしくなっている中、

「おっ、キリーじゃないか。久しぶりだな!」

 どこからともなく声が聞こえてきた。キリーが振り向くと、そこに居たのはノレックの街で出会った冒険者であるスッチだった。

「スッチさんじゃないですか。トレントの時以来ですね。お元気そうでなによりです」

「それはこっちもだよ。しかし、ブランに来ているとは思わなかったな」

 和気あいあいと会話をするキリーとスッチ。マスールはこの展開について来れないようだ。

「なあ、こいつ誰なんだ?」

 キリーに質問するマスールである。

「春先のノレックで出会った冒険者でスッチさんです。ハスールさんともお知り合いなんですよ」

 律儀に紹介するキリーである。

「スッチさん、こちらマスールさんです。ハスールさんの弟でスラン所属の冒険者です」

「へえ、ハスールさんの弟か。どうりでよく似ているはずだ」

 マスールをじろじろと見るスッチ。そして、パンと膝を叩く。

「よし、だったら俺が案内してやるよ。ちょうど先日までの依頼を済ませて休養しているからな。今なら家に居るはずだ」

「本当ですか? 助かります」

 スッチの言葉に頭を下げるキリー。

「気にするなって。ノレックでは世話になったしな。お互い様ってやつだ」

 スッチは人差し指で鼻を擦りながら喋っている。

 周りはキリーとスッチの会話を見てすっかり黙り込んでしまっていた。どうやら、スッチはブランではそれなりに名の知れた冒険者なのだろう。2人が会話する様子に驚いているようだった。

「それじゃ早速向かおうぜ。ハスールさん、休みでも鍛錬している事があるから、下手をするとすれ違う可能性があるからな」

「分かりました。すぐに参りましょう」

 スッチの情報に、すぐに向かおうとするキリー。しかし、それを受け付けの男性が呼び止める。

「すみません、冒険者証を返しておりませんので、受け取ってからにして下さい」

 どうやらさっき確認のために冒険者証を渡してそのままになっていたようだ。それを聞いて、キリーとマスールは冒険者証を返してもらっていた。

 一連のやり取りが終わると、キリーとマスールはスッチの案内で、ハスールの家へと向かったのだった。

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