第459話 山を下ってブラン
ブランの街の情報を得たキリーたちは、翌朝早速、再びエアレ・ボーデで山を下り始める。ノレックの街で聞いた通り、狭い山間の中に街道が一本だけ伸びている状態だった。これならそう迷う心配もなく、ブランの街にたどり着けるというものだろう。
ただ、空中を行くキリーたちにはひとつだけ誤算があった。
「やけに空を飛ぶ魔物が居るな。この足場じゃまともに戦えやしねえぞ!」
マスールが騒いでいる。
実はその通りで、さっきからキリーたち目がけて魔物が襲い掛かってきているのである。
「鑑定魔法によれば、スノーイーグルと出てきますね。こういう山間部に生息する氷属性を持った鷲のようですね」
エアレ・ボーデの上で座った状態のまま、キリーは落ち着いた様子で喋っている。マスールとは実に対照的な反応である。
「よく落ち着いてられるな、お前は。このままじゃ、俺たちは凍らされてしまうぞ!」
ギャーギャーと騒ぐマスールである。
「マスールさん、そんなに暴れると危ないです。落ち着いて座っていて下さい。僕が対処しますので!」
騒がしすぎるがために、温厚なキリーが血管マークを浮かべて怒っている状態だった。そのくらいうるさいのである。
次の瞬間、キリーはエアレ・ボーデの上で座ったまま、スノーイーグルの群れに向けて魔法を放った。
「ジ・フアレ・ラーサ!」
次の瞬間、スノーイーグルの群れに向けて炎の槍が向かっていく。そして、スノーイーグルの体に突き刺さったかと思えば、スノーイーグルの体を内部から焼き払ってしまったのだった。
「グエエエッ……!」
苦しそうな声を上げながら、スノーイーグルは地面へと落下していく。
「ここら辺の魔物は珍しいですから、回収していきましょうか」
「お、おう……」
キリーの冷静で淡々とした態度に、マスールは激しく困惑していた。可愛い見た目とは裏腹に、冷静にとんでもない事をやらかしているので、マスールは言葉を失っていたのである。
地面へと落ちたスノーイーグルたちは完全に沈黙していた。キリーは先を急ぐために、スノーイーグルたちを収納魔法へと放り込むと、再びブランの街へ向けて移動していくのだった。
山を下っていってどのくらい経っただろうか。ようやくキリーたちの間の前に街のような場所が見えてきた。
「見た感じからするに、ギルドで聞いたブランの特徴と似ていますね。という事は、ここがブランの街でいいという事でしょうね」
「おおう、もう着いたのか」
ノレックから下る事、たったの1泊である。つまり、翌日には簡単にブランの街に着いてしまったのである。エアレ・ボーデ、恐るべき移動スピードであった。
キリーはエアレ・ボーデをブランの街から少し離れた場所へと着陸させる。これはノレックの街でも使った方法だ。知らない人ばかりである街で自分の手の内を簡単に明かさないという手法だった。空飛ぶ空気の塊など目立って仕方ないのである。騒ぎになって囲まれるくらいなら、それを避けるのは当然だろう。
そんなわけで、街の近くで地上に降りて、徒歩で目的に向かうキリーたちだった。
ブランの街は、白色のレンガの建物が目立つ、見た目にも不思議な感じの街だった。
「うわあ、これがブランの街ですか。全体的に白っぽい街ですね」
思わずキリーは声を上げてしまう。
「ここに兄貴が住んでいるのか。……うう、今さらながらに緊張してきたぜ」
マスールもマスールで反応していた。長らく会っていない身内に会うとなると、こんな感じになってしまうのだろうか。
とりあえずは街に入るために、街の入口である門へと向かう。そこではノレックの街と同じような反応をされてしまうキリーたちである。
「メイド服のお嬢ちゃん、ブランに何の用だい?」
「あれ? ハスールの旦那じゃないのか? おかしいな、街から出た記録はないんだが?」
キリーを口説く門番と、マスールを見て驚く門番と、対応が見事に分かれてしまっていた。
「俺はマスール。ハスールは俺の兄貴だ。この街に居ると聞いてやって来た」
マスールを見て混乱している門番に、マスールは冷静に対処している。ノレックの二の舞を避けたような形である。
「おお、ハスールの旦那に弟なんて居たのか。これは失礼した。ようこそブランの街へ。ハスールの旦那には世話になっているから歓迎するぜ」
歯を見せながら笑う門番である。どうやらブランの街では、ハスールは英雄に近しい扱いのようだった。ただの筋肉だるまではないようである。
「ハスールの旦那なら、今頃は冒険者ギルドに居るだろうから、向かえばきっと会えるだろう。久しぶりに会う身内となれば、それはもう喜んでくれるんじゃないかな」
門番はそう言葉を続けていた。
「そうか。で、その冒険者ギルドの場所はどこなんだ?」
マスールは門番に尋ねる。
「ブランの街は左右の区画に分かれている。真ん中に街道が一本走っていて、それによって街の区画が分かれているんだ。冒険者ギルドは街道から左右に大きな枝道が伸びている場所にある。看板が出ているからすぐに分かると思うぜ」
「そうか、ありがとよ」
門番の説明に、とりあえずお礼を言っておくマスールである。
「キリー、さっきの説明聞いていたな?」
「もちろんですよ。それじゃ行きましょうか」
門でのやり取りを終えたキリーとマスールは、無事にブランの街の中へと足を踏み入れたのだった。
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