第456話 意外な人物からの依頼
依頼を受けなくなってしばらく経った。そんな時、キリーの元に冒険者ギルドの職員がやって来た。
「キリーさん、指名依頼が来ています」
「ほえ?」
ヴァルラの手伝いをしていたキリーが、気の抜けた返事をする。
「どこの誰だ。今は依頼を受け付けていないと言っただろうが」
「いえ、そうなんですけれど、その方しつこくってですね。仕方なく話だけを伝えに来たんですよ」
冒険者ギルドの職員は、ヴァルラに睨みに怯みながらも事情を説明している。あまりの怯えように、やむなく話だけを聞く事にしたのだった。
「で、その人の話を聞かないのはどこの誰だ?」
「銀級冒険者のマスールさんです。どうしてもと言われて押し切られてしまいました」
「なんだ、あの筋肉男か。冒険者からの依頼となるとよっぽどだな。話くらいは聞いてやろう」
依頼主の名前を聞いた途端、ヴァルラは睨むのをやめておとなしく椅子に座り直した。キリーの方はヴァルラの様子にハラハラしっぱなしである。
「ありがとうございます。依頼の内容なんですが、マスールさんの兄であるハスールという方に会わせてほしいというものです。ここから山を越えた先にある街に住んでられるという事なのですが、私たちの方は少々情報が不足しているので、詳細がよく分からないんですよね」
冒険者ギルドの職員は、ちょっと言い訳がましく話をしていた。
「ハスールさんの今住んでいる街は知っていますね。ブランという街ですよ。スレブから峠を越えて、ノレックからさらに山を下りた場所にあるそうです」
キリーは記憶を引っ張り出しながら答えている。これだけしっかり覚えているあたり、さすがといったところである。間にエルフの街に行ったり、砂漠の街に行ったりした上にいろいろあったというのに、よく覚えていられるものである。
しかし、話をしているキリーもブランの街には行った事がない。ノレックの街で会ったスッチたちから名前を聞いたくらいである。とはいえ、実際に見える地形とエリエ・エンヴィアを組み合わせれば、到達自体はそう難しくはないだろう。
だが、キリーは悩んでいた。
「キリーさん、何をお悩みなのでしょうか」
職員が尋ねてくる。
「マスールさんの指定は僕だけでしょうか」
キリーからの質問は、依頼を受けられる人物に関するものだった。自分1人だけなのか、同行人を認めるものなのか。キリー1人だけでも楽勝ではあるものの、そこは気になる点のようである。理由としては、今までの依頼はほとんどがマオと一緒だったからだ。
だが、困った事に職員からは明確な答えは返ってこなかった。おそらく単純に、マスールからその辺りの指定がなかったのだろう。そうだとしたら、職員に答えられるわけがないのである。
「……分かりました。一応マオさんも連れて、マスールさんとお会いしましょう。時間と場所の指定はお任せします」
「分かりました。決まり次第お知らせに参ります」
そう言って、職員は帰っていく。職員が帰った後で、キリーはヴァルラと顔を見合わせていた。
「いいのか? 引き受けて」
「知らない人じゃないですからね。ハスールさんも会いたそうにはしていましたし、身内が会うというのは悪い事じゃないと思いますよ」
「ふむ……」
問い掛けに対してキリーからの返答に、ヴァルラは小さく頷いていた。
その後の食事の際、ヴァルラとキリーはマオにその話をする。
「まあ、そんな事がありましたのね。ホビィさんの相手をしている間に来ていただなんて、なんて事ですの」
マオは少々不機嫌な感じで反応をしている。除け者にされたのが気に食わなかったようだ。
「マオさん、不機嫌になるのはまだ早いですよ。職員の方に条件は伝えましたから」
キリーはマオを宥めるように話し掛ける。
「あら、そうでしたのね。では、マスールさんとお会いしてから文句を言わせて頂きますわ」
だが、マオの機嫌は直っていなかったようだった。あまりのマオの不機嫌っぷりに、ヴァルラとキリーは苦笑いをしていた。
食事を終えた頃だった。
「お待たせしました。今から冒険者ギルドで会おうという事です」
さっき話をしていた職員が再び家を訪れたのだった。それにしてもさっきの今でやって来るとは、マスールとスムーズに話がついたようである。なんて仕事の速さなのだろうか。
キリーは一応ヴァルラに許可を求める。すると、ヴァルラは仕方ないなという表情をして、
「知り合いの頼みなら聞いてあげるといい。私も止めやしない」
「ありがとうございます、師匠」
少し渋ったようには見えるものの許可を出していた。
無事に許可を得たキリーは、マオと一緒に冒険者ギルドへと向かう。
それにしても、どうして今頃マスールはキリーへと依頼を出そうとしたのだろうか。疑問に思う事はあるものの、とにかくキリーとマオは職員と一緒に冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドの中でマスールと対面するキリーとマオ。そのマスールの表情は、いつもとは違い、かなり影を落とした表情をしていた。一体何があったというのだろうか。
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