第453話 決意を持って
翌日、マニエスとの会談も終わった事で、再びスランの街を散策して回るルナとガット。案内人はもちろん、キリーとマオである。身内から頼まれたら、それは断れないというものだ。
「うん、賑やか。スレブも早くこれくらいになるといい」
ルナはのびのびとしながらも、不満めいた顔でそんな事を呟いていた。
スレブは今までは奴隷制度が幅を利かせていただけに、まだまだどことなく陰鬱な雰囲気を漂わせている。半年ほど経過はしているが、効果はまだ薄いようなのだ。
商業ギルドを牛耳っていた悪魔たちも、キリーたちの分からせのかいがあってか、改革のためにまじめに取り組んでいる。だけど、今まで築き上げてきた周りからの印象もあってか、満足のいく結果が出ているとは言い難かった。何にしても我慢の時である。
キリーとマオは、ルナの希望もあってか自分たちの家に向かう事になった。
「見つけたわ、ホビィ」
「わわっ、ルナなのです」
家に着くなり庭で汗を流すホビィに突撃するルナ。その声と姿に気が付いたホビィが慌てている。だが、きちんとホビィはルナの体を受け止めたのだ。
「久しぶりなのです。少し大きくなったのです?」
ルナの体を受け止めたホビィは、素直にその印象を口にしていた。
「当たり前。私は今、成長期だもの」
頬を膨らませながらホビィに文句を言うルナである。天の申し子ではあるものの、こういうところは年相応の少女というものである。
ただ、成長の具合はというと、双子の兄であるキリーと似たり寄ったりで、身長は少し大きくなっているものの、体型はまあ慎ましいものだった。とはいえ、まだ12歳のキリーとルナである。まだまだこれからなのだ。
「むむ、成長というのならマオくらいになってから言うのです」
「あのですね。私を巻き込むのはやめて下さいません?」
ホビィがマオを見ながら巻き込もうとするので、マオはホビィに文句を言っている。
「まったく、どこを見て話しているかしらね、ホビィさん」
ジト目で睨まれるホビィは、少し震え上がっていた。実力は完全にマオの方が上だからだ。こういうところは魔物の習性というべきところなのだろう。自分より強い相手には逆らえないのだ。
「なんだか賑やかだな。どうしたんだ、ホビィ」
家の中からヴァルラが出てくる。
「師匠」
「なんだキリー、もう用事は済んだのか?」
キリーが反応して声を掛けてくるので、ヴァルラはにこりとしながら尋ねている。
「いえ、ルナがどうしてもここに来たいと言うので、寄った次第なんですよ」
「うむ、ルナとな?」
キリーの返答を聞いて、ヴァルラは辺りを見回す。すると、すぐにキリーとよく似たちょっと着飾った少女を発見した。
「おお、ルナか。やっぱり双子なせいかキリーと似ておるな」
「ふふん、にいさんと似てる、嬉しい」
ヴァルラの感想を聞いて、勝ち誇ったような態度を取るルナ。根っからのお兄ちゃんっ子なのである。
ちなみにキリーの方も照れているので、実に似た者同士な双子なのである。
「時にルナ、スレブの改革は順調か?」
ヴァルラはルナに確認を取る。
「それなりにという感じ。商業ギルドのカネヤも協力的にしてくれてるから、計画は進んでる」
「ふむ、そうか」
ルナの話を頷きながら聞くヴァルラである。
「ただ、やっぱりスレブ内部にもまだ抵抗はある。周りの街や商人たちの理解もまだまだ乏しい。少しずつ変えていくしかない」
説明をしながらルナは唇を噛んでいた。領主の娘としての自覚があるせいか、ルナはとても悔しがっているのである。
「確かにそうだな。長い時間をかけて積み上げられてきたものはなかなか変えられん。地道な努力で跳ね返すしかないぞ」
「うん」
ヴァルラの言葉に力強く頷くルナ。その姿を見たキリーは、頼もしく思えたのだった。
結局この後は、家に上がって話し込んだのち、昼食まで食べていた。久しぶりに双子が揃った上に仕事を絡ませずに済むの食事なせいか、ルナもずいぶんとリラックスしていたようだった。
「うん、これでとりあえず予定は終わり」
ぺろりとご飯を平らげたルナは、こう告げていた。まあ、メインの用事はマニエスとの交渉だったのだから、それ以外の用事はすべて余計な事だったようである。
「そうかそうか。キリーたちの身内だからな、困った時はいつでも相談に来なさい。できる限り力になろうじゃないか」
「嬉しいけれど、これは私たちスレブの問題。どうしても厳しそうだったら考える」
ヴァルラの申し出を、ルナはやんわりと断っていた。とはいえ、強力な味方がいる事を心強く思ったようである。つながりがあるというのは大きなアドバンテージなのである。
「それじゃにいさん、私たちはそろそろ帰る。スレブを自慢できる街にしていくから、楽しみにしてて」
ルナはそう言いながら親指を立てていた。
「ガットもしっかりやりなさいよ。スレブで勉強すると言ったのはあなたなんですからね」
「……分かってるよ」
ずっと静かだったガットがようやく喋ったのであった。
まったく、今から尻に敷かれっぱなしでは、将来が不安でしかないというものである。このガットの姿には、キリーとマオは思わず困惑の表情を浮かべて顔を見合うくらいだった。
こうして慌ただしかったルナたちの来訪が終わり、ルナとガットはスレブへと戻っていったのだった。
きっとルナたちならスレブを変えていける。キリーたちはそう信じるのだった。
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