第451話 双子2組揃い踏み

 キリーとマオは、ルナとガットを連れてスランの領主マニエスの屋敷へとやって来た。スランに住んでいるとはいえ、この屋敷にやって来たのはこれで何度目だろうか。意外と足を運ばないものである。

 屋敷の門番のところへ行くと、ルナが書状を出して見せつけていた。ヴォルグからそのように教えられたらしく、おそらくルナは詳しくは理解していないと思われる。

 とはいえ、門番に書状を見せた事で、無事にマニエスの屋敷に入る事ができたのだった。

「おお、キリーくん、マオくん。実に久しぶりだね」

 マニエスが部屋で出迎える。それと同時に部屋まで案内してくれた使用人がそそくさと部屋を出ていった。

「お久しぶりです、マニエスさん」

「お久しぶりですわ、マニエス様」

 キリーとマオがぺこりと挨拶をする。それに釣られるようにして、ルナとガットも頭を下げていた。

「えっと、そっちは以前に会った事があったね。すまない、名前を憶えていなのは失礼だったな」

 マニエスはルナとガットを見ながら謝罪をしている。領主として忙しいのだから、一度や二度しか会っていないなら、そういう事もたまにはあるだろう。

「いえ、気にしません。これからしっかり覚えて頂ければ、それでよろしいのですから」

 ルナにしてはしっかりとした口調で対応している。少し言葉に淀みがあったので、まだ慣れていないのがよく分かる。ただ、ちょっと偉そうな言葉だけに、ついつい笑ってしまうキリーだった。

「……にいさん、笑わないで」

「いえいえ、あまりに言い方がおかしかったので、つい」

 ルナに睨まれたキリーは、笑ったまま言葉を返す。

「そうですわね。相手は領主様なのですから、言葉の選び方がなっていませんわ」

 それに連なるように、マオがルナにお説教を始める。

「ルナさんの今の言葉では、相手を怒らせるだけです。言葉遣いはまあ頑張ったと言えるでしょうが、選んだ言葉は最悪です。今日は遅いですからやめてさし上げますが、明日にでもその辺りをしっかり叩き込みますわよ」

「ええー……」

 マオが説教をしていると、ルナは露骨に嫌な顔をしていた。

「ルナ?」

 しかし、キリーが笑顔を浮かべて迫ると、ルナは怖がって数歩引いていた。

「に、にいさん。……分かった。勉強する……」

 キリーに怒られるのは嫌なのか、ルナは渋々マオの教育を受け入れる事にしたのだった。

「はははっ、そうか。キリーくんの妹さんだったか。そっちはマオくんの弟くんだったね。確か、名前はルナくんとガットくんだね。うん、思い出したよ」

 さっきからのやり取りを聞いていたマニエスは、ルナとガットの事をようやく思い出したようだった。

「マニエス様ったら、本気で忘れていましたのね」

「いや、すまない。会ったのが去年の話だし、何よりキリーくんとマオくんが活躍してくれるおかげで忙しかったからね。おかげで一部の事はすっぽり記憶から抜け落ちてしまっていたんだよ」

 マニエスは笑いながら釈明していた。

 だが、キリーとマオもそれを怒るような事ができなかった。確かにいろいろやらかした自覚があるからだ。結局キリーとマオは互いの顔を見て、大きくため息を吐いていたのだった。

「……まあ、そういう事にしておいてさし上げますわ。出向く度にいろいろ起きますから、私たちも正直参っていますけれどね」

「まったくですね」

 キリーとマオは腕を組んで唸り始めたのだった。

「にいさん、何かあった?」

 その様子を見て、ルナが声を掛けてくる。

「先日ですけれど、南の砂漠地帯に行ったのですが、とんでもない悪魔に出くわしましてね。まあ、その事はまたの機会に話しましょう」

「うう、気になる」

 キリーが言い渋ったがために、ルナがとても残念そうにしている。だが、さすがにキリーとマオは家に戻らなければならなかった。しばらく仕事を休むという事だから、外泊ももちろんできないというわけなのである。2人は律儀なので、こういう事は必ず守るのである。

「師匠に言って明日も来れるようにしますから、とにかく今日は我慢ですよ、ルナ」

 ルナの頭を撫でながら、キリーは言い聞かせていた。それに対してルナは、

「分かった。約束ですよ、にいさん」

 下唇を突き出して、渋々といった感じではあるものの我慢していた。

「俺の時とはえらく態度が違うな……」

 その様子を見ながらガットがボソッと呟くと、その瞬間、ルナが顔を向けてガットを鋭い視線で睨みつけていた。どうやら丸聞こえだったようである。

「げげっ、今の小声が何で聞こえるんだよ!?」

 焦るガットである。

 そのガットの姿を見ながら、マオは頭を抱えていたのだった。

「……まったく、ガットも成長しませんわね」

 姉として頭の痛い限りだった。なんで冒険者をしているマオの方が常識人なのだろうか。

「マニエス様、明日の昼前は2人の事は私たちが相手致しますわ。よろしいでしょうか」

「ああ、それは構わないが?」

 マオの提案に、マニエスは戸惑いながらも了承する。

「ルナさん、ヴォルグ様からお預かりしている手紙を、マニエス様にお渡しして下さいませ」

「うん、分かった」

 マオの言葉におとなしく従うルナ。兄であるキリーの友人であるがために、かなり心を許しているのである。

「確かに預かった。では、話し合いは午後という事でいいかな?」

「はい。その席には私たちも同席致しますわ。この2人では少々不安がございますので」

「分かった。そのように手配しておこう」

 話し合いが終わった事で、キリーとマオは領主邸を後にする。

 はてさて、明日はどうなるのだろうか。ルナとガットでまともな話し合いができるのか、不安で仕方がないマオだった。

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