第449話 揃えば平和なひととき

 お互いの用事を済ませたキリーたちとヴァルラは合流する。久しぶりに一緒に街を散策しながら家へと戻っていった。

「お帰りなのです」

 家に戻るといつも通り庭の世話をしているホビィが出迎えていた。すっかり見慣れた光景である。

 銀級冒険者でもあるホビィだが、元々はホップラビットという魔物である。強い繁殖力と旺盛な食欲で、畑を一瞬で食い尽くすという白い悪魔のようなウサギの魔物だが、キリーの魔力の影響で兎人となったホビィは、そういった面はかなり鳴りを潜めていた。

 ちょっと背伸びをしたがる偉そうなウサギではあるが、キリーの影響があるのでかなり真面目。なので、こうやってちまちまとした作業も文句を言う事なくこなしてしまうのである。今ではヴァルラの家の畑の番人となっている。

「今日は人参がおすすめなのです」

 笑顔で言い放つホビィ。

 こうは言っているものの、ホビィの好物は肉である。人参も好きではあるけれど、それ以上に肉が好きである。

「そうかそうか。ならば、その人参も使って、おいしい料理でも作るとしようか」

 ヴァルラはホビィのおすすめの人参を受け取ると、にこやかに話していた。

「さて、今日の用事も終わった事だし、さっぱりしてくるといいぞ」

 ヴァルラはそう言いながら、1人で台所へと向かっていった。キリーたちはヴァルラの言葉に従ってお風呂に入ったのだった。

 お風呂に入ってさっぱりしたキリーたちは、服を着替えて食堂へと顔を出す。そこではヴァルラが台所に立っている姿があった。

 魔女とは呼ばれているヴァルラだが、こうやっている姿を見ている限りはただのお姉さんといった感じだ。その姿を見守りながら、マオとホビィは席に着き、キリーはヴァルラを手伝い始めた。

「おお、キリーか。もうさっぱりしてきたのか?」

「はい、さっき出てきたところです」

 気が付いたヴァルラが問い掛けると、キリーはにこやかに答えていた。冒険者としては厳しいキリーも、普段はこのくらいに愛らしいのである。

「はあ、ホビィさんが相変わらずふわふわで癒されますわ……」

「や、やめるのです、マオ。くすぐったいのです!」

 料理ができるまでの間、マオとホビィは戯れていた。なにせホビィはウサギがそのまま二足歩行する状態になっているので、全身はふわふわの毛に包まれているのである。その触り心地といったら、なんとも言えないくらいに気持ちいいのだ。

 やめるように言っているホビィだが、その戯れをやめさせようとはしていなかった。それというのも、長い事依頼で不在にしていたからだ。特に今回は砂漠地方だった事もあって、ご褒美的に長々と堪能させているのである。

 そうこうしているうちに、食事の準備が整う。何気にこうやって食卓に全員が揃うのはかなり久しぶりだった。大抵はキリーとマオが居ないのである。金級冒険者としてあちこちに引っ張りだこだから仕方がないのだ。

「やっぱりご主人様が居ると、食卓が落ち着くのです」

 ホビィは本音を隠す事を知らなかった。

 この言葉を聞いたキリーは、申し訳なさそうに表情を曇らせていた。金級冒険者という強者とはいっても、そこは12歳の純粋な少女なのである。

「ホビィ、本当にごめんなさい。しばらくは一緒に居られますから、今までの分も楽しみましょうね」

「はいなのです、ご主人様」

 キリーがそう言うと、ホビィはとても喜んだように反応していた。ここら辺はさすが元魔物、単純なのであった。

「そうだな。まだ2人は幼いがゆえに、しばらく依頼をすべて止めてもらうとしようか。明日、コターンとオットーと掛け合ってみるぞ」

 キリーたちの姿を見たヴァルラは、そのように言っていた。

 しかし、冒険者としての自覚のあるキリーとマオは、そこまでしなくてもいいという反応をしていたのだが、ヴァルラの考えは変わらなかった。

「いや、やはりまだ子どもな2人にこれ以上の無茶はさせられんな。実際、今回の砂漠での依頼では危険な目に遭ったのだろう? さすがに保護者として見過ごすわけにはいかんのだよ」

 ヴァルラからの圧はすさまじかった。これにはさすがのキリーとマオも黙るしかなかった。

「分かりました。師匠がそこまで仰るのでしたら、従います」

 これ以上ヴァルラを困らせるのはよくないと、キリーは折れたのだった。

 実際、砂漠で遭遇したヘキサとの戦いはギリギリだった。状況が違えば死んでいた事は否定できないのだ。それがゆえに、受け入れざるを得なかったのだ。

 そのキリーの態度を見て、マオもやむなくヴァルラの提案を受け入れたのだった。なんだかんだで、マオはキリーには弱いのだ。

「ふふっ、2人がいい子で私は嬉しいぞ」

 ヴァルラは嬉しそうに笑っていた。

 そして、ようやく食事の準備が整うと、キリーたちは夕食を取る。

 キリーたちが揃えば、なんだかんだと和やかになる食卓である。昨日とかに話しきれなかった事などを、キリーとマオはヴァルラたちに話していた。

 内容はとんでもない事ばかりだったものの、ヴァルラもホビィも2人の話をじっくりと聞いていたのだった。

 本当にキリーとマオは、まだ若いというのにいろいろ経験し過ぎなのである。

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