第447話 ブラッディキャップの工房
ようやくのんびりできる状態になったキリーとマオは、キャップとビシュが住む工房へと向かった。元々が残虐非道なブラッディキャップとは思えないくらい穏やかな彼らは、すっかりスランでは名の知れた職人となっていて、キリーたちが訪れた時には、数名の来客があったようだ。
職人として名が知れているなら人がそれなりに集まってはいそうだが、基本的には商業ギルドを通しての依頼を受けているので、そんなに客はやって来ていないらしい。大体直にやって来るのは、噂を聞いたよそから来た人間たちである。
「お邪魔しますよー」
キリーたちが中へと声を掛けながら入っていく。
「あっ、ご主人様。いらっしゃい」
キャップが反応してキリーに対応する。
「お久しぶりです」
ビシュも顔を出してくる。
「なんだ、お前ら。割り込みか?」
「お二人は俺たちのご主人様だ。文句は言わせねえぞ」
やって来ていた客の中の1人である少しガラの悪い冒険者がキリーたちに凄むと、キャップがイラッと来たのか文句を言っている。
「なんだと? どう見たってガキじゃねえか。笑わせんな」
「まあ、この人、遠くから来たのですわね」
減らず口を叩く冒険者にマオが驚いていた。
「なんだと!?」
それに対してキレ気味になる冒険者。
「この辺で僕たちを知らないとなると、もぐりになりますよ」
「ああ!?」
キリーが呆れて言うと、さらにキレていく冒険者。
「あれ、キリーさんとマオさんじゃないですか。こちらにいらしていたんですね」
そこに実にタイミングよく商業ギルドの職員が現れる。
「こんにちは」
現れた職員に挨拶をするキリー。
「おい、こいつの事知ってるのか?」
何も知らない冒険者が職員に絡む。
「知ってるもなにも、スランで知らない人は居ない金級冒険者のキリーさんとマオさんですよ。知らない方がおかしいレベルの有名人ですからね」
「なん……だと……」
職員から返された答えに、冒険者が驚きおののいている。
そこへキリーとマオが冒険者証を取り出して止めを刺す。
「こ、これは……、確かに、金級冒険者……」
よろよろと後退していく冒険者。次の瞬間、勢いよく土下座をしていた。
「す、すいやせんでした!」
床に思い切り頭を打ち付けているために、キリーとマオもさすがに戸惑いを隠せなかった。
「謝って頂けるのはいいのですが、さすがにそこまでしなくてもよろしいのですわよ」
「ええ、まったくです」
「いや、散々失礼な態度を取ったのです。これぐらいしなければ、俺の気が済みません!」
どうにも落ち着きそうになかったので、キリーとマオは冒険者の事をとりあえず放っておいて、キャップとビシュに話し掛けた。
「そういえば、珍しい素材が手に入りましたので、2人に預けますね」
「何をでしょうか、ご主人様」
キリーの言葉に驚くキャップとビシュ。キリーはそれに構わず、収納魔法からミミックツリーの素材を取り出した。
「ミミックツリーと呼ばれる砂漠地方の魔物の素材です。魔力を含んでいるので、いろいろ試せると思って持ってきたんですよ」
「へえ、これはずいぶんと変わった素材だな」
「不思議な魔力を感じますね」
キリーが取り出した木材を見て、キャップとビシュはすぐさまその素材の特殊性に気が付いていた。さすがは職人といったところだ。
「砂漠に生息する木の魔物ですからね。生きるためにかなり魔力を持っているみたいですよ」
「へえ、そんな魔物が居るんだな」
キャップはそう呟きながら、ミミックツリーの素材を手に取って眺めている。
「なるほど、こいつは面白そうだ。いくらで引き取ればいい?」
キャップはそう言ってキリーに確認を取ってくる。しかし、キリーはそれに対して首を横に振っていた。
「1個くらいは研究用に提供しても問題ないと思いますので、ただでいいですよ。まだたくさんありますから」
キリーがこう返してくるものだから、キャップは驚いた顔をしていた。
「……まったく、ご主人様には敵わないな。ビシュ、とりあえずお前に預けるよ。木材ならお前の方が得意だろ?」
「分かったわ」
キャップが話を振ると、ビシュはミミックツリーの素材を受け取る。
「うわあ……、これなら面白いものが作れそう」
手に取ってまじまじと見つめながら、ビシュはわくわくした表情を見せていた。そして、そのままうきうきした様子で奥へと入っていった。
「……で、あなたは一体何を頼もうとしておりましたの?」
呆然としていたマオが我に返って、いまだに土下座でいる冒険者に問い掛けた。
「はっ、そうだった。最近、装備が傷んできたから新調しようと思ったんだった。いい職人が居るからって薦められてここに来たんだよ」
冒険者は立ち上がって事情を説明していた。
「なるほどですわ。でしたら、お邪魔してしまった事もありますし、見繕って差し上げますわ」
「そいつはありがてえ!」
最初の失礼な態度が嘘のような冒険者である。
「どうやら全部丸く収まったようですし、用事を済ませましょうか」
「あ、ああ。そうですね」
キリーに話し掛けられて、商業ギルドの職員もようやく我に返ったようだった。
ともかく用事を済ませたキリーとマオは、そのままその場に居た人たちにお節介を焼いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます