第446話 とりあえず向かう先は

 スランに戻ってきたキリーとマオは、ヴァルラとも話をして冒険者ギルドに向かう事になった。

 ギルドへ入ると、いつもの通りにカンナが出迎えてくれる。

「あっ、キリーさん、マオさん。お久しぶりですね」

「カンナさん、お久しぶりです」

 声を掛けられたので挨拶を返すキリー。

「本日はどうされたのですか? 依頼の確認ですか?」

 わくわくとした表情でキリーとマオに問い掛けるカンナ。何を楽しみにしているのだろうかと、マオが露骨に嫌な顔をしている。

「まあまあ、カンナよ。そう興奮するな。この2人は南の砂漠地帯に行っていて戻ってきたばかりぞ。とりあえず2人の話を聞いてやってくれないか」

 ヴァルラが苦笑いをしながらカンナにツッコミを入れている。これにはカンナも冷静にならざるを得なかった。

「こほん、失礼しました。では、改めてご用件を伺い致します」

 真面目な顔をしてカンナが受付嬢らしい行動を取り始めた。これには、キリーとマオはつい笑ってしまう。

「とりあえずなんですが、砂漠で採れた素材がありますので、確認して頂こうと思います」

「少々量がありますから、裏の解体場の方にご案内頂けますかしら」

 キリーとマオがそう言うので、カンナはそれを了承する。そして、ヴァルラも含めて解体場へと案内した。

 冒険者ギルドの解体場は、商業ギルドからもよく見える。なにせ、両方のギルドに挟まれた場所に存在しているのだから。

 久しぶりに姿を見せたキリーとマオを見て、解体場で働く職員たちが、なんだなんだと視線を向けている。

「なんだ、キリーとマオじゃないか。しばらく見てなかったが、どこに行ってたんだ。商会の護衛はとっくに終わっていただろう?」

 コターンまでもが姿を見せる。どれだけ人が集まってくるのだろうか。

「実は、その依頼には続きが発生しちゃいまして、それで先日まで砂漠地方に出向いていたんですよ」

「なんだ、そうだったのか。ルラロの奴、何か言葉を濁していたなと思ったらそういう事か」

 キリーが答えると、コターンは何か思い当たる不死でもあったのか、1人で唸っていた。

「今はそれはどうでもいい事ですわ。砂漠地方から持ち帰った素材をお出ししますから、ちょっと場所を空けて下さいませ」

 マオが全員を下がらせる。

 そして、大きく空いたスペースに砂漠から持ち帰った素材をどさどさと出してくる。もちろん、イラドやクサバでも一部買い取ってもらったのだが、それでも大量にまだ残っていたのだ。

 目の前に積み上がっていく素材の数に、コターンをはじめスランの冒険者ギルドの職員たちは大口を開けてそれを眺めている。

「おいおい、なんだよこれは……」

 コターンですら言葉にならない光景だった。

「これがサンドスコーピオンで、こっちがデザートリザード、そっちがミミックツリーですね」

 そんな中、淡々と説明していくキリーである。周りの反応なんてどこ吹く風だった。

「おいおい、これのどこがサンドスコーピオンとデザートリザードなんだ?! 通常の何倍も大きいじゃないか。俺も砂漠に行った事があるからよく知っているんだぞ!」

 コターンが叫んでいる。

「一部で地脈の乱れが地表にまで及んでいましたのよ。その影響を受けたのが、この大きなサンドスコーピオンやデザートリザードというわけですわ」

「むぅ……、地脈の乱れか。それならば変異種が居てもおかしくないか。だが、ここまで大きくなるという事は、相当な期間、その地脈にさらされていたという事だな」

「そうですわね」

 コターンの理解は早かった。他の職員たちはまったく理解が追いつかないというのに、コターンだけは分かったようだ。

「おし、早速鑑定に掛けてくれ。このまま解体して大丈夫なのかを判明させておくんだ。稀に死んだ後の方が厄介な魔物が居るからな」

「はい、分かりました!」

 コターンの声に、職員たちが忙しく動き始めた。

「というわけだ。このでかいサンドスコーピオンとデザートリザードは1体ずつ引き取らせてもらおう。残りは安全性が確認されてからでいいか?」

「はい、それで構いませんよ。収納魔法であればいつまででも保存が利きますからね」

「ありがたい」

 キリーの返答に、実に嬉しそうにするコターンだった。

「こっちのミミックツリーの素材もなかなか面白いものだな。魔力との親和性が高いときている。ノレックのトレント木材に負けぬ素材だな」

 ヴァルラもしっかり素材の観察をしていた。さすがは魔女と言われた事のある人物である。

「さすがヴァルラ様ですわ。素材の説明をすっかり忘れていましたのに、しっかりそれを見抜いてしまわれるなんて……」

 ヴァルラの観察眼に、マオは驚いていた。

「師匠ですからね」

 これに対してキリーはそう言って満面の笑みを浮かべていた。

 結局その日の冒険者ギルドは、キリーとマオの持ち込んだ素材で大盛り上がりだったという。珍しい素材というのは、冒険者ギルドにとってとてもありがたいらしい。

 ちなみに今回の素材も相当の高額で買い取られる事が決まったのだが、キリーとマオは今までの貯蓄があるので、今回の受け取りは見送ったのだった。

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